通路をふさいでいた2台の自転車
私の住むマンションは、自転車は1階の駐輪場に置く決まりで、通路には物を置かないことになっていました。
ところが去年の春ごろから、同じ階に住む50代くらいの男性が、部屋の前に自転車を2台置くようになったのです。
男性は駐輪場まで行くのが面倒なようで、2台が並ぶと通路はかなり狭くなります。
ベビーカーを押して通る私には、毎日のことだけに困っていました。
ある日、帰ってきた男性に思い切って声をかけました。
「すみません。自転車、もう少し寄せてもらえませんか。ベビーカーが通りにくくて…」
男性は自転車をちらりと見ると、疲れたような顔で答えました。
「今帰ってきたばっかりなんだ。あとにしてくれよ」
そう言って部屋に入り、自転車はそのままです。
その後、管理会社から通路に物を置かないよう注意の紙が貼られました。それでも状況は変わりませんでした。
別の日、男性と顔を合わせたとき、私はもう一度だけ伝えました。
「注意の紙も出ていますし、ここは空けてもらえませんか」
すると男性は紙を見て、鼻で笑うように言いました。
「自転車2台くらい、通路に置いても平気だろ」
「でも、いざというときに通れないと困ります」
「そんなこと、めったにないだろ」
それ以上言っても話にならず、私は引き下がりました。
やがて管理組合が2台の自転車に撤去を予告する札を付けました。
ところが翌朝、その札はちぎられ、ゴミ置き場に捨てられていました。
誰が破ったのかは分かりません。
それでも自転車は動かないままで、私は毎朝、ベビーカーを慎重に動かしながら狭い横を通っていました。
撤去期限の朝、理事長が呼び止めた
撤去期限を過ぎた平日の朝、ベビーカーを押して通路へ出ると、2台の自転車の前に60代くらいの理事長と、40代くらいの管理会社の担当者が立っていました。
ちょうど部屋から出てきた男性に、理事長が声をかけます。
「すみません。この自転車のことで少しお話があります」
男性は眉を寄せました。
「朝から何だよ」
理事長は落ち着いた声で説明しました。
「先月の消防の点検で、共用通路に物が置かれていることについて指摘がありました。この2台も、そのままにはできません」
男性は黙って自転車を見ました。
続いて担当者が、破られた札の写真を見せます。
「撤去予告の期限は昨日まででした。今日ここで駐輪場へ移していただけない場合は、予定どおり対応します」
男性はしばらく黙ったあと、小さな声で言いました。
「…自転車くらいで、そこまでしなくてもいいだろ」
理事長は声を荒らげることなく返しました。
「毎日ここを通る方もいますから。通路は空けておいてください」
男性は何も言わず、自転車を1台ずつエレベーターへ運び、駐輪場へ下りていきました。
あの日から、通路に自転車が置かれることはなくなりました。
その朝、私は久しぶりにベビーカーを押したまま、まっすぐ通路を歩くことができました。
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた40代女性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














