「これ、どのくらい煮た?」3000円の数の子を出した正月、父に「3時間」と答えると笑われた理由
3000円の数の子を、鍋に入れた夜
60代の私が、まだ料理にあまり自信がなかったころの話です。
その年の暮れ、私は初めておせち料理を手づくりしてみることにしました。まず選んだのは数の子です。
売り場で一番立派に見えた、3000円ほどのものを買いました。
値段を見て一瞬迷いましたが、「正月くらいはいいだろう」と思い、かごに入れました。
年末の夜、私は台所の鍋の前に立ちました。
数の子の作り方をきちんと調べることもなく、出汁としょうゆを鍋に入れ、そこへ数の子を並べて火をつけたのです。
「しょうゆで煮れば、いい色になるだろう」
ところが、しばらく煮ても思っていたような色にはなりません。
しょうゆを少し足しては、ふたを開けて様子を見る。それを何度も繰り返しました。
「もう少しかな…」
そのまま煮続け、気づけば3時間ほどたっていました。
台所には甘辛い香りが広がっています。見た目は想像していたものとは少し違いましたが、私は「これだけ煮たんだから、味はしみているだろう」と満足して火を止めました。
父に聞かれて答えた「3時間」
元日の朝、食卓に重箱を広げ、小皿に数の子を盛りました。向かいには80代の父が座っています。
「数の子、ゆうべ作ったんだ。食べてみてよ」
「お、手づくりか」
父は箸で数の子をつまみ、ひと口かみました。
すると、それまで普通に動いていた父のあごが止まりました。もう一度ゆっくりとかんでから、不思議そうな顔で私を見ます。
「これ、どのくらい煮た?」
「3時間くらいかな。じっくり煮たから、味はしみてると思うけど」
父は一瞬黙ったあと、吹き出すように笑いました。
「数の子を3時間も煮たのか」
なぜ笑われるのか分からず、私も小皿から1つ取って口に入れました。
「……あれ?」
かんだ瞬間、いつも食べている数の子とはまるで違う、硬い手ごたえが返ってきました。何度かんでも、あの歯切れのいい食感にはなりません。
「これは…失敗したな」
ようやく父が笑った理由が分かりました。
後日、本屋で料理の本を開き、数の子は長時間煮込むのではなく、味をつけた出汁に漬けて仕上げる作り方があることを知りました。
父はその正月の間、重箱を見るたびに思い出しては笑っていました。
それ以来、わが家では味のついた数の子を買うようになりました。翌年の正月、それを食卓に出すと、父は箸を伸ばしながら、にやりとしました。
「今年のは、3時間煮てないやつか」
「もう煮てないよ」
私も笑いながら答えました。
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた60代以上男性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














