「嫌なら、もっと早く来ればよかったのに」運動会で視界を遮るテントを立てた母親。だが、見回りの先生が伝えた一言
開会式を待つ私たちの前に現れたテント
子どもが小学生だったころ、運動会で困った出来事がありました。
前日に雨が降ったため、当日の校庭はところどころ地面が湿っていました。
観覧場所に着くと、乾いた場所はすでにほとんど埋まっています。家族であちこち探し、ようやく空いている場所を見つけてレジャーシートを敷きました。
「ここなら、ゴールのあたりもよく見えそうだね」
夫とそんな話をしながら、開会式が始まるのを待っていました。
ところが、目の前に座っていた家族の父親が、大きな袋から何かを取り出し始めたのです。
出てきたのは、海水浴などで使うような小さめのテントでした。
「えっ、ここに立てるの……?」
思わず夫と顔を見合わせました。
その家族は後ろを確認することもなく、テントを広げ始めました。あっという間に目の前には布の壁ができ、校庭がほとんど見えなくなってしまったのです。
しばらく迷いましたが、このままでは子どもの姿も見られません。私は思い切って声をかけました。
「あの、すみません。テントがあると、後ろから何も見えなくて……」
すると母親は、荷物を運び込みながら答えました。
「でも、暑いんですよ。日よけなので」
「そうですよね。ただ、もう少し低くすることってできませんか?」
その言葉に、母親がようやくこちらを向きました。
「低くしたら意味ないじゃないですか。嫌なら、もっと早く来ればよかったのに」
思いがけない返事に、私は言葉を失いました。
夫がそっと私の袖を引きます。ほかに空いているのは、地面が湿った木の下くらいでした。
「仕方ないね。移動しようか……」
残念でしたが、言い争っても仕方ありません。私たちはレジャーシートを片づけようとしました。
見回りの先生が伝えた決まり
ちょうどそのとき、ジャージ姿の男性の先生が見回りにやってきました。
先生はテントの前で足を止め、中にいる家族に声をかけました。
「おはようございます。すみません、こちらは観覧場所なので、テントは立てられないんです」
すると母親は、驚いたように顔を上げました。
「えっ、でも日よけなんですけど。ほかの人も使ってますよね?」
そう言って周囲を見回しますが、ほかにテントを立てている家族はいません。
先生は落ち着いた声で説明しました。
「テントを使う方には、校舎側に場所を用意しているんです。お知らせにも書いてありますので」
「あ……そうなんですか」
母親は何か言いかけましたが、それ以上は何も言いませんでした。
先生は校舎のほうを示し、もう一度伝えました。
「指定のエリアでお願いします」
母親は家族と顔を見合わせると、黙ってテントの留め具を外し始めました。
やがてテントをたたみ、荷物をまとめた家族は、校舎のほうへ歩いていきました。
目の前を遮っていたテントがなくなり、校庭が再び見渡せるようになりました。
夫は持ち上げかけていたシートを下ろし、ほっとしたように笑いました。
「よかったね。木の下に移動しなくて済んだよ」
「うん。本当によかった……」
まもなく開会式が始まり、整列する子どもたちの中に、わが子の背中を見つけることができました。
その日は最後の競技まで、私たちはその場所で応援を続けました。
暑さをしのぎたい気持ちは分かります。でも、同じ場所で運動会を見る人たちへの配慮も忘れてはいけないと感じた出来事でした。
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた50代女性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














