「スープがぬるい。口コミに書くから」ほぼ食べ終えてから、お代は払わないと騒ぐ客。だが、態度が一変
商店街のラーメン店の昼過ぎ
お客さんは連れの方に、今日は自分のおごりだと言いました
「今日は、私のおごりね。」
カウンターの右側の丸椅子に座った女性のお客さんが、連れの方に胸を張りました。
10月の平日、昼の混雑が引いた商店街のラーメン店には、この2人だけが残っていました。
女性のお客さんは先に一人で来店し、二人分のラーメンを注文していました。連れの方は、外で電話を終えてから入ってきたのです。
パートの私は、カウンターの中で注文を聞き、料理をお出ししていました。
どんぶりがほぼ空になってから、スープがぬるいと言われました
女性のお客さんのどんぶりがほとんど空になったころ、突然、声が上がりました。
「スープがぬるい。口コミに書くから。」
「お代は、払いません。」
連れの方は、手もとの水のコップに目を落としています。
奥の厨房では店長が次の仕込みに取りかかっていて、こちらのやり取りには気づいていない様子でした。
ふつうに注文しただけと言われ、私は頭を下げるしかありません
「私は、ふつうに注文しただけ。」
「申し訳ございません。」
私は頭を下げました。しかし、注文のときのやり取りは、はっきり覚えています。
女性のお客さんは確かに『スープはぬるめで』と言い、私が繰り返して確認すると、うなずいたのです。
けれど、注文を聞いたのは私ひとり。連れの方はまだ外にいました。券売機も伝票もない店なので、その場ですぐに注文内容を示せるものが見当たりません。
お盆には注文内容を区別するための木札を載せていましたが、お客さんのスマホが置かれているあたりは、こちらからよく見えませんでした。
こちらの説明を聞いてもらえないまま口コミを書かれれば、店の評判に響くかもしれません。
三角巾の下で、こめかみがじんと熱くなりました。
「口コミに書く」と言われて
お客さんはスマホを持ち上げ、ひと口目からぬるかったと言いました
女性のお客さんが、お盆の上に伏せてあったスマホを持ち上げました。
「お店の名前も、書いとくわ。」
「ひと口目から、ぬるかったの。」
私は何も言わず、顔を上げました。
そのとき、スマホが置かれていた場所に、小さな青い木札が見えたのです。
青い木札は、ぬるめのご注文のときだけお盆に置きます
私は、お盆の上の、どんぶりの横へ手のひらを向けました。
「ご注文のとき、スープは何と?」
そこには、先ほどまでスマホに隠れていた青い木札がのっていました。
この店では、スープをぬるめにしてほしいという注文を受けたとき、青い木札を目印にしています。
私が注文内容を繰り返して確認したあと、札をお盆に置いて厨房へ伝える仕組みです。
店長は札を見て、指定された温度に調整したスープを用意します。配膳時の取り違えを防ぐため、札はお盆に載せたままにして、食器を下げる際に回収する決まりでした。
今回は、料理を運んだあとにお客さんがスマホを伏せて置いたため、青い木札がその下に隠れていたのです。
お客さんの持ち物を、店員の私が勝手に動かすわけにもいかず、スマホが持ち上げられるまで札を確認できませんでした。
お客さんは二人分払うと言い、スマホを伏せて手を置きました
「さっきまで、札なんてなかった!」
「お客さんのスマホの下にありました。」
札は、私が注文を受けたときに置いたものです。お盆が届いてから、お客さん自身がその上にスマホを伏せていました。
連れの方も、スマホが置かれていた場所に目を向けています。
そもそも、ぬるめのスープを希望したのはお客さん自身でした。ひと口目からぬるかったと言いながら、どんぶりがほとんど空になるまで何も言わなかったのです。
連れの方が、水のコップをカウンターに置き、小さくうなずきました。
お客さんは『……熱いのが苦手で、ぬるめって頼んだわよ』『二人分、払うわ』と言いました。
私が『口コミには、ぬるめのご注文と、お書きください。』と返すと、お客さんはスマホをカウンターに伏せ、手のひらで覆いました。
それまで身を乗り出していた肩は小さく丸まり、もうスマホを持ち上げようとはしませんでした。
※本記事はフィクションです。物語の登場人物、団体、名称、および事件はすべて架空のものであり、実在のものとは一切関係ありません。
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














