「学生時代モテモテだったとか」旧友の名を出した嫁の友人。家族も知らない過去を語り始めた瞬間
和やかなはずの午後
孫の保育園入園を機に、息子夫婦と二世帯で暮らし始めた。
その日、嫁のママ友が手土産を持って訪ねてきた。
「突然すみません。一度ご挨拶したくて」
礼儀正しい人だ。私は気をよくして茶をすすめ、しばらく和やかに話していた。ところが会話の流れで、彼女がふいにこう切り出した。
「お義父さん、△△高校のご出身ですよね?」
言った覚えのない母校を当てられ、私は戸惑った。
「ええ、合ってますが……なぜそれを?」
「私の元上司から、よくお名前を伺っていたんです」
その元上司というのが、私の高校時代からの親友だと知って、思わず姿勢を正した。
過去を匂わせる笑顔
「学生時代モテモテだったとか」
彼女は明るい声で、そう続けた。褒め言葉のはずなのに、笑顔の裏に何かを含んでいるように見えてしまう。
「もう何十年も前の話ですよ」
「ずいぶん羽目を外したこともあったって、楽しそうに話してくださいました」
胸の奥が、ひやりとした。
若い頃の遊びや、酒で失敗して朝帰りした夜のことは、家族の誰にも明かしていない。
同居を始めてからも、その手の話だけは慎重に避けてきたつもりだった。親友だけが知る、私の弱みだったはずだ。
「お酒は、今もたしなまれるんですか?」
「……ほどほどに、ですよ」
声がわずかに上ずった。彼女はそれを見透かすように、ゆっくりと茶を口に運ぶ。穏やかな所作のひとつひとつが、なぜか妙な圧をともなって迫ってきた。
読めない笑みの奥
「私、あの方と同じ名前なんですよ」
その一言の意味は分からない。
ただ、笑顔の奥でこちらの過去をどこまで握っているのか、まるで読めなかった。
(この人は、いったいどこまで聞いているんだ)
嫁の前で、立場のいい義父でいたい。
そんな私の足元を、彼女の柔らかな笑みが静かに揺さぶってくる。
「お孫さん、いつも元気にご挨拶してくれて。素敵なご家庭ですね」
「おかげさまで、なんとか……」
当たり障りなく返すのが精一杯だった。この人がいつ、どんな調子で嫁に話を切り出すか分からない。本人にその気がなくても、世間話のついでに一言こぼされれば、それで終わりだ。
考えるだけで、背筋に冷たいものが走った。
「また、寄らせてくださいね」
帰り際まで、彼女は終始にこやかだった。その表情が読めないぶん、得体の知れない不安だけが部屋に残る。
ドアが閉まる音を聞きながら、私は深く息を吐いた。
それからも彼女は、時折わが家に顔を出す。そのたびに私は平静を装いながら、ただ祈っている。どうか、家族には伏せておいてくれと。
※tendが独自に実施したアンケートで集めた、50代・男性読者様の体験談をもとに記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














