「事情聴取のように2度聞かれた」マンションの騒音で始まった住人への聞き取り。だが、騒音の正体は
受話器の向こうから続いた細かな質問
夕方、台所に立っていると、管理会社から電話がかかってきた。担当の男性は丁寧な口調だったが、音について一つずつ細かく尋ねてきた。
「音がするのは何時ごろですか。どんな音で、どのくらい続きますか」
「昼もありますけど、夜中もです。機械が回っているような低い音で、長いと2時間くらい続きます」
住人が6戸しかいない小さなマンションに住んで三年になる。この春、下の階に家族が越してきたころから、うなるような音と床に響く振動が気になるようになった。
一度、全戸あてに生活音への注意を呼びかけるお知らせも配られた。それでも音はやまなかった。
数日後、同じ担当者からもう一度電話があった。
「前回と重なる部分もありますが、もう一度確認させてください」
再び、音が聞こえた時間や長さを聞かれた。夜、帰宅した夫にそのことを話すと、私は思わずこぼした。
「事情聴取のように2度聞かれた」
夫は少し眉を寄せた。
「そこまで聞くってことは、うちも疑われてるのかな」
「分からない。でも、たぶん順番に確認してるんじゃないかな」
そのころには、廊下でほかの住人と顔を合わせても、どこかぎこちない空気が流れるようになっていた。誰が音を出しているのか分からないままなので、私自身もつい周囲を気にしてしまっていた。
聞き取りの時刻と重なったランニングマシン
次の週末、階段を下りたところで、あの担当者を見かけた。下の階の玄関前に立ち、手には住人から聞き取った時間をまとめた表を持っていた。
ちょうど玄関から、40代くらいのご主人が出てきた。
担当者は表を確認しながら、落ち着いた声で尋ねた。
「お部屋で、モーター音のする運動器具などを使うことはありますか」
男性は少し考えてから答えた。
「ランニングマシンなら使っていますけど…」
担当者は表を示した。
「皆さんから聞いた時間と、かなり重なっています。夜間の使用は控えていただいて、防振マットなどの対策もお願いできますか」
「いや、でも、うちではそんなに響いてなくて……」
そう言いかけた男性は、表に並んだ夜中の時刻を見て黙った。
しばらくして、首の後ろに手をやりながら小さく頭を下げた。
「…自分の部屋では、そんなに響いていなかったので。分かりました。対応します」
担当者も責めるような言い方はせず、「ありがとうございます。助かります」と短く返した。
その週のうちに、夜中の音はぴたりと止んだ。お願いしていた防振対策をしてくれたのだろうと思った。
その後、郵便受けには管理会社から全戸あてのお知らせが入っていた。音の原因が分かり、住人に対応してもらったことと、聞き取りへの協力に対するお礼が書かれていた。
それを読んだ夫が、ほっとしたように息をついた。
「2度も電話が来たのは、ちゃんと調べてたからなんだな」
翌朝、廊下で上の階の年配の女性と顔を合わせると、女性は久しぶりに笑った。
「やっと静かになりましたね」
「本当に。昨夜はぐっすり眠れました」
階段の下では、下の階のご主人が出かける子どもに手を振っていた。こちらに気づくと、少し照れたように会釈する。私も何も言わず、笑って頭を下げた。
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた40代女性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














