なんでも仕事を振る上司
「あなたなら早いでしょ?」
その言葉は、私にとって信頼の証ではなく、ただの「押しつけ」の合図でした。
50代になり、若手のような無理もきかなくなってきた今日このごろ。
職場のデスクには、すでに自分の容量を超えるほどの書類が山積み。
そんな状況もお構いなしに、上司はいつもの軽い足取りで近づいてきます。
「これ、急ぎなんだけど頼めるかな? ほら、あなたならこれくらい、あっという間でしょ?」
差し出されたのは、かなりの手間がかかる追加案件。
私の返事も聞かず、当然のように資料を置いていこうとする上司の手。
その瞬間、私の中で何かが静かに、でも確実にはじけました。
一度、深く、ゆっくりと吸い込んだ空気。
これまでなら「承知しました」と飲み込んでいた言葉の代わりに、私は努めて穏やかに、そして真っ直ぐに上司の目を見据えました。
私の正論
「今お渡しいただいた件ですが、残念ながら私のタスクはすでに上限です」
「え……? でも、いつもなら……」
「もし、この仕事を最優先で進めるのであれば、現在抱えている仕事のうち、どれを後回しにすればよいでしょうか? 具体的な指示をいただけますか?」
冷静な私の一言に、上司は文字通り、鳩が豆鉄砲を食ったような顔。まさか「NO」を突きつけられるとは思ってもいなかったのでしょう。
沈黙が流れるオフィス。
すると、隣の席で黙々と作業をしていた同僚が、救いの手を差し伸べるように口を開きました。
「実は、私もそれ聞きたかったんです。みんなギリギリで回しているので、追加の指示を出すなら優先順位をはっきりさせてくれないと困ります」
「そうですよ。彼だけに負担が行き過ぎているのは、見ていて忍びないです」
次々と上がる、周囲からの援護射撃
。上司は完全に逃げ場を失い、キョロキョロと周囲を見渡した後、決まり悪そうに頭をかきました。
「……あ、ああ。わかったよ。この件は急ぎだし、今回は私が自分でやることにする。みんな、無理をさせたな」
そう言って資料を抱え、逃げるように自分の席へと戻っていく上司の背中。
その姿は、いつもの威圧感など微塵も感じられないほど、情けなく、そして小さく見えたものです。
「よく言ったね!」
「ずっとみんな言いたいと思ってたんだよ」
上司が去った後、同僚たちが小声でかけてくれた温かい言葉。
その瞬間、胸の中にずっと居座っていた真っ黒なモヤモヤが、五月晴れの空のようにスーッと晴れ渡っていくのを感じました。
「できないことは、できないと正しく伝える」
当たり前のことですが、それを実行できた達成感で、その日の帰り道はいつもより足取りが軽くなりました。
※tendが独自に実施したアンケートで集めた、50代・男性読者様の体験談をもとに記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














