「鳥にえさをやって何が悪い」と怒鳴った住人。2か月後、自治会長さんが花壇の水やりを手伝うようお願いしたワケ
白く汚れていく手すり
私が暮らす公営の団地で、鳩が増え始めたのは夏の終わりでした。3階に住む60代くらいの男性が、ベランダの手すりから米粒やパンの耳を落としていたのです。
やがて鳩は、人の出入りがない空き部屋と、1階に住む80代くらいの女性のベランダに住みつくようになりました。
女性は杖をついて歩いていて、しゃがんでふんを掃除するのも難しそうでした。回覧板を届けに行ったとき、困った顔で窓の外を見ながら言いました。
「もう洗濯物も外に干せなくてね。部屋の中だと、なかなか乾かないのよ」
団地の管理担当者も一度、男性の部屋を訪ねました。しかし男性は玄関先で声を荒らげました。
「鳥にえさをやって何が悪いんだ。もう帰ってくれ」
その晩、私は自治会長さんの部屋を訪ねました。70代くらいの自治会長さんは、私の話を最後まで聞くと、しばらく考えてから言いました。
「言い合っても、たぶん話は進まないでしょうね。まずは今どうなっているのか、記録を残しましょう」
翌日から、自治会長さんは毎朝同じ時間にベランダの様子を写真に残し始めました。
長机に並んだ2か月分の写真
2か月後の夕方、集会所の長机には、その写真がずらりと並んでいました。
自治会の集まりに呼ばれた男性は、写真を見る前から腕を組んでいました。
「また、えさの話か。何を言われてもやめないぞ」
自治会長さんは言い返さず、写真を一枚ずつ示しました。
「これが空き部屋です。こちらが1階のベランダ。毎朝、同じ時間に撮りました」
そして女性のベランダの写真を指さしました。
「えさをまいている3階だけではなく、周りの部屋にも鳩が集まっています。この方は足が悪くて、自分で掃除するのが難しいんです」
男性は何も言わず、写真を順番に見ていました。しばらくして腕をほどき、小さな声で言いました。
「…朝、鳥が来るのが楽しみだったんだ。話し相手みたいでな」
自治会長さんは少し間を置いてから、花壇の見取り図を広げました。
「もし朝に外へ出るのなら、花壇の水やりを手伝ってもらえませんか。人手が足りなくて困っているんです」
男性はすぐには返事をせず、見取り図を眺めていました。
それから、静かにうなずきました。
翌月から、男性は毎朝じょうろを持って花壇に来るようになりました。手すりから米粒が落ちることもなくなり、鳩の数も少しずつ減っていきました。
ある晴れた朝、1階の女性のベランダには、タオルと寝間着が並んでいました。
花壇で水をやっていた男性に、女性が窓から声をかけました。
「お花、きれいに咲いてるわね。ありがとう」
男性は少し照れたように帽子のつばを下げると、そのまま次の鉢へ水をやっていました。
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた50代男性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














