「10万円にしなさい」甥の結婚祝いをめぐって80代の母に押し切られた私。数日後、思わず笑ったワケ
報告するだけのつもりだった
昼すぎ、60代の私は実家の居間で、80代の母とこたつを挟んで向かい合っていました。
姉の長男が結婚し、式は挙げずに籍だけ入れたと聞いたため、そのお祝いについて母に話していたのです。
といっても、私はすでに金額を決めていて、相談というより報告するだけのつもりでした。
「式もないし、5万円で包もうと思ってる」
母は少し考えてから聞きました。
「あの子に会ったのって、何回くらいだったかしら」
「子どものころに何度かあったかな。だから、5万円で十分だと思ってる」
母は何も言わず、お茶をひと口すすりました。これで話は終わりだと思い、私が腰を浮かせかけたときです。
「あなた、10万円にしなさい。お姉ちゃんの顔もあるでしょう」
母は湯のみを置き、まっすぐこちらを見ました。
「いや、でも私ももう60を過ぎてるんだよ。自分で決めてもいいだろう」
「だからこそよ。向こうのご家族だって、お祝いは目にするでしょう。それに、あなたは昔、お姉ちゃんにずいぶん世話になったじゃない」
学生のころに姉がこっそり小遣いをくれたことや、引っ越しのたびに手伝いに来てくれたことを思い出し、私は浮かせた腰をもう一度こたつに戻しました。
「……分かったよ。10万円にする」
すると母は、念を押すように続けました。
「お札は新しいものにしてね。向きもちゃんとそろえるのよ」
銀行の列で気づいたこと
実家を出たその足で、私は銀行へ向かいました。
窓口には数人が並んでいて、私も最後尾につきました。
前の人の背中を眺めながら、ふとおかしくなりました。
60歳を過ぎた自分が、自分の財布から出すお祝いの金額を80代の母に決められ、そのまま言われた通り銀行に来ているのです。
まるで学生のころに戻ったような気分でした。
順番が来ると、私はカウンター越しの係の女性に頼みました。
「1万円札を10枚、新しいお札にかえてください」
「かしこまりました。向きもそろえておきますね」
その言葉に、私は一瞬、母の顔を思い出しました。
係の女性は新しいお札を手早く数え、端をきれいにそろえて差し出してくれました。
母と同じことを言われたような気がして、私は思わず深く頭を下げていました。
それでも家に帰ると、祝い袋へ入れる前に、お札の向きを自分で3回確認しました。
数日後の夕方、姉から電話がありました。
「お祝い、届いたよ。ありがとうね」
「うん。どういたしまして」
少し間があってから、姉が笑いながら言いました。
「あれ、お母さんに言われたでしょ」
私は返事に困りながらも、つられて笑ってしまいました。
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた60代以上男性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














