「腰が痛いのよ。椅子くらい使わせて」運動会の最前列で注意を拒んだ母親。だが、プログラムを見て黙った理由
最前列に広げられた折りたたみの椅子
下の子の小学校の運動会は、よく晴れた朝に始まりました。
観覧席は、朝から並んだ順に場所を取る決まりです。
私も人の少ないうちから並び、トラックに近い2列目にシートを広げました。
すぐ前の列には、子どものバスケットボールの練習で顔を合わせたことのある家族が座っていました。
ところが競技が始まると、その家族の母親がかばんから折りたたみの椅子を取り出し、シートの上に広げたのです。
母親が腰かけた途端、私の目の前はその背中でふさがれてしまいました。
首を伸ばしても、トラックがほとんど見えません。後ろの保護者たちからも、困ったようなため息が聞こえてきます。
しばらく迷いましたが、思い切って声をかけました。
「あの、すみません」
母親は肩越しに振り返りました。
「何ですか?」
「椅子だと、うしろから前が見えなくて…」
すると母親は眉を寄せ、少し不満そうな声で答えました。
「せっかく早く並んだんだから、好きに座らせてよ」
「そうなんですけど、子どもたちが見えないので……」
私がそう返すと、母親は今度は体ごと振り向きました。
「腰が痛いのよ。椅子くらい使わせて」
腰が痛いという事情は分かります。それでも、前が見えないままでは困ります。
母親はそれ以上話すつもりがないのか、前を向いてしまいました。
私は手元のプログラムに目を落としました。次はいよいようちの子の出番です。
このままでは、楽しみにしていた姿を見られないかもしれません。
娘の一言で、母親が確認したもの
そのとき、子どもたちの席のほうから、体操服姿の女の子が駆けてきました。
前の列に座っている家族の上の子です。
女の子は母親のそばまで来ると、広げられた椅子を見て、少し驚いたような顔をしました。
そして、観覧席の後ろを指さして言ったのです。
「ママ、椅子はいちばん後ろって先生言ってたよ」
「え?」
母親が振り向くと、女の子は続けました。
「プログラムにも書いてあったよね」
母親は何も言わず、手元のプログラムに目を落としました。
後ろの列からも、保護者が連れの人に話す声が聞こえました。
「先生、ちゃんと言ってたもんね」
母親はしばらくプログラムを見つめていましたが、やがて小さく息をつき、頬を赤くして立ち上がりました。
そして、折りたたみの椅子を片づけ、足もとに置いたのです。
先ほどまでの強い口調は消え、母親は黙ってシートの上に座り直しました。
女の子はそれを見てうなずくと、子どもたちの席へ駆け戻っていきました。
椅子がなくなったことで、目の前の視界が開けました。
トラックの向こうには、ちょうど出番を迎えたうちの子が並んでいます。
「あっ、出てきた!」
思わず声が漏れました。
やがてうちの子は、まっすぐ前を向いて走り出しました。その姿を、私は最後までしっかり見届けることができました。
後ろにいた保護者たちも、ようやくトラックに目を向け、子どもたちへ声援を送っていました。
腰が痛いなら椅子を使いたい。その気持ちは理解できます。でも、周りにも子どもの姿を楽しみにしている人がいます。
大人同士ではなかなか伝わらなかったことが、娘さんの素直な一言で伝わった運動会でした。
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた30代女性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














