「もう少し下げられないのかね?」新居祝いの品を選んだ時の武勇伝を語る義父。悪気のなさが残す違和感とは
壁を見て申し出てくれた義父
新居に越してから数年。
家族で集まるたびに、リビングの白い壁が話題に上がっていた。
義父は定年退職後で時間にゆとりがあり、ある日その目がふと壁に止まった。
「絵とか壁掛け時計とか飾ったらどうだ。俺が選んできてやる」
夫はやんわり遠慮を示したが、義父はもう乗り気だった。
電車に乗ってわざわざ都心の百貨店まで足を運ぶつもりらしい。義父なりの孫や息子夫婦への愛情の表れだと、私もありがたく受け止めていた。
会計時の店員へのひと言
お盆に義実家を訪ねた時、義父は応接間に油絵と鳩時計を並べ、待ちかねたように土産話を始めた。
海外製の油絵と、年季の入った鳩時計。
趣味としては悪くないと思った。
けれど話の中身は、選んだ品物よりも値段交渉のくだりが大半だった。
会計時、駐車券の有無を確認した店員に、義父はこう返したのだという。
「特急で30分かかったんだけどねぇ」
車で来た客には駐車券があるのに、電車で来た自分には何もないのは不公平ではないか。
そういう意味の愚痴を、嬉しそうに繰り返した。店員が困った顔をしていたであろう光景が、聞いているこちらにありありと浮かんでくる。
悪気のなさが残す違和感
値下げ品の油絵に対しても、義父は「もう少し下げられないのかね?」と粘ったらしい。
語り口はあくまで武勇伝の調子だった。
「店員さんも大変だっただろうな」と、夫が苦笑混じりに相づちを打つ。
義父は「俺の言ったことは正論だ」とでも言いたげに、何度も頷いていた。
(嬉しそうに、当然のように、こんな話を孫の前で繰り返すんだ)
悪気がないからこそ、訂正もできない。注意すれば「せっかく持ってきてやったのに」と機嫌を損ねるのは目に見えている。
義父の中では、値切りも駐車券の苦情も、息子夫婦への手柄話の一部なのだろう。
新居に絵と時計を持ち帰る車中、夫がぽつりと呟いた。「もう、買い物は頼まないでおこう」。私も静かに頷いた。義父との関係を悪くしたいわけではない。
ただ、店員さんに頭を下げに行きたいような気持ちは、その日からしばらく胸の奥でくすぶり続けた。リビングに掛けた絵を眺めるたび、義父の語り口の声色が耳の奥でよみがえる。
心づかいは確かに嬉しかったはずなのに、素直に「ありがとう」とだけ言える日は、しばらく訪れそうになかった。
※tendが独自に実施したアンケートで集めた、30代・女性読者様の体験談をもとに記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














