「これ早く片付けて」普段は冷たい口調で話す男性医師。だが、新人の看護師の前で見せた姿に思わず絶句
声色を聞き分ける耳が、職歴で育つ
20年以上看護師をやっていると、医師の声色に妙に敏感になる。
50代の私が今勤める病院でも、男性医師たちの口癖や指示出しの癖は、たいてい頭に入っている。
外来の中堅の男性医師について、何かが少しおかしい、と気づいたのは新人の女性看護師が入った春のことだった。
朝のカンファレンスが終わって詰所に戻ると、その医師がカルテを抱えて入ってきた。
同じ仕事の依頼を、私と新人とで使い分ける。
「お忙しいところ恐縮ですが、これ、お願いできますか」
新人に向けたその一言を聞いたとき、思わず手元のカップを置いた。
普段、私や同年代の同僚に飛んでくる言葉とは、まるで別の言語に聞こえた。
対比で浮かび上がる、別の感情の動き
その同じ口で、こちらを向いた瞬間に短く飛ぶ。
「これ早く片付けて」
顎をくいっと動かす仕草まで一緒だ。指示の中身は同じ、対象が違うだけで、声の温度がここまで違うのか、と毎回耳が痛くなる。
2年目の女性看護師にも、似たような調子で話しかける。
カルテを差し出すときの距離が、私たちに対するそれより明らかに近い。
「髪、切った?似合ってるよ」
診察と診察の合間にぽろっと出るその一言に、本人はたぶん何の重さも置いていない。
けれど詰所の空気は確かに止まる。
(怖いのか。それとも、好かれたいのか)
新人の彼女が私の後ろに立ちたがる日が増えた。先生の足音が廊下から響くたび、ペンを置く手が一瞬止まる。
声を直接かけられて困るのは、決まって彼女のほうだった。
主任に休憩室でこっそり相談されたこともある。
あの距離感、何とかなりませんか、と。私たちが盾になれる範囲は、たかが知れている。
業務には支障が出ていない。診療も滞りなく進む。それでもその一連を毎日詰所で見せられる側の気持ちは、どこにも吐き出しようがない。
同じ言葉が誰に向けられたかで意味が反転する職場というのは、こんなにも息苦しいものかと思い知らされる。
新人の彼女に、夜勤明けの控室でそっと聞いてみた。直接何かを言われた経験があるのかと。
小さく首を振ったあと、彼女は薄く笑って付け加えた。
何も言われていないのに、毎日見られている気がするんですと。その声に、私のほうが先に黙り込んでしまった。
軽く扱われている、と憤るより、別の感情で若い相手だけを丁重に扱っているとはっきり分かるあの落差のほうが、ずっと寒気が走る。同じ詰所にいる全員が、声色だけで序列をつけられているような気がして、今日もため息が出た。
※tendが独自に実施したアンケートで集めた、50代・女性読者様の体験談をもとに記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














