「私は、この日のことをまだ覚えてるよ」10年前に友人に貸した2万円。今は連絡先も消したワケ
十年ぶりに出てきた名前
先月、地元の友人と久しぶりに喫茶店へ入った。
子どもの写真を見せ合っているうちに、昔いっしょに遊んでいた子の名前が出た。県外へ引っ越していった、あの子のことだった。
「そういえば、あの子とはまだ連絡取ってる?」
「ううん。もう10年前に消したんだ」
「えっ、そうなの?仲よかったよね。何かあった?」
友人が驚いた顔をした。人に話すのは、そのときが初めてだった。
お金を貸したのは私が二十二歳のころで、金額は2万円だった。
一人で子どもを育てていて、親にも頼れないと聞いていた。
元夫から生活費が入ったらすぐ返す、という話だった。
その後、会う約束をしたものの、三度続けて当日に断られた。
一度目は子どもの熱だった。
「ごめん、今日は無理かも。子どもが熱出しちゃって」
それなら仕方がないと思った。
二度目は、身内の具合が悪くなったという連絡だった。そして三度目も、待ち合わせの改札まで来たところでスマホが鳴った。
「本当にごめん。家族の体調が悪くて、今日も行けそうにない」
そこまで話すと、友人が思わず聞き返した。
「待って。連絡は当日だったの?」
「うん。三回目はもう改札まで来てた」
「それはきついね…」
私は返済を迫るために会おうとしていたわけではなかった。会えたら顔を見て、元気にしているか聞ければいい。そのくらいの気持ちだった。
それでも三度続くと、さすがに胸の奥に引っかかるものが残った。
日付を並べて送った夜
三度目に断られた日の夜、何気ないやり取りの中で、画面に一枚の写真が流れてきた。
テーブルの上に、新しいゲーム機の箱が置かれていた。
それを見た瞬間、昼間のやり取りを思い出した。
友人がカップを置いた。
「それ、断られた日の夜に見たの?」
「うん。でも、その日に買ったのかは分からないよ」
「そっか。でも、タイミングがタイミングだもんね」
「そう。責めるほどのことじゃないって分かってるんだけど、なんか急に疲れちゃって」
電話をかけて聞こうかとも思った。でも、写真だけで何かを決めつけるのも違う気がした。
結局、その日は何も送らず、三度断られた日付だけをスマホのメモに残した。
一週間後、また相手から連絡が来た。
「悪いんだけど、また少し都合をつけてもらえないかな」
画面を見たまま、しばらく返事ができなかった。
私は三度断られた日付を順番に書き、そのあとに写真を見た日も添えた。
最後に一言だけ書いた。
「私は、この日のことをまだ覚えてるよ」
返事は来なかった。
二日待っても何もなく、三日目に私は連絡先と履歴を消した。
「それから、一度も連絡ないの?」
「うん。一度も」
友人は少し黙ったあと、伝票を手に取った。
「そっか。そこまで重なったら、前みたいには付き合えなくなるよね」
「うん。たぶん2万円だけの話じゃなかったんだと思う」
店を出ると、通りの向こうを下校中の子どもたちが歩いていた。
友人はもう別の話を始めていた。私もそれに答えながら、10年ぶりにあの名前を口にしたことを、途中まで忘れていた。
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた30代女性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














