「5千円もしたのに」香水の匂いが残る服を返品しようとした女性。店長が譲らなかった理由
値札は5千円のまま、匂いだけが残っていた
週末の夕方前、洋服の店のレジには十人ほどが並んでいた。
順番が来た女性が台に置いたのは、タグのついたままのカットソーだった。値札は5千円。袋から出されたその品を、私は両手で受け取った。
「これ、サイズが合わなくて。返品お願いできます?」
「かしこまりました。少々確認いたしますね」
広げてすぐに気づいた。襟の内側にはうっすら色が移り、香水の匂いも残っていた。着用の跡や香りが残っている品は返品を受けられない。
研修で覚えた内容を確認しながら、私はできるだけやわらかく伝えた。
「申し訳ございません。こちら、着用された跡と香りが残っていますので、返品をお受けすることができないんです」
女性の表情が変わった。
「え?一回、家で合わせただけですよ」
「はい。ただ、商品の状態を確認しますと…申し訳ありませんが、今回は返品の対象外になります」
「でもタグだってついてるじゃない。外に着ていったわけでもないし、新品と同じでしょう?」
声が少しずつ大きくなり、列に並んでいる人たちの視線もこちらへ向き始めた。
「申し訳ございません。タグがついていても、着用の跡や香りが残っている場合はお受けできない決まりなんです」
「そんなの納得できないわ。ほとんど着てないのに」
女性はカットソーを指さしてから、強い口調で言った。
「責任者の方、呼んでもらえます?」
「かしこまりました。少々お待ちください」
同じ説明を重ねても、このままでは話が進まない。私は品物をたたみ直し、奥にいる店長へ声をかけた。
3分で、店長が線を引いた
奥から出てきた店長は、カウンター内の私の隣に立った。
「お待たせいたしました。」
女性はすぐに店長へ向き直った。
「これ、一回しか着てないんですよ。それなのに返品できないって言われて」
「そうでしたか。少し確認させてください」
店長はカットソーを広げ、襟元を確認した。少し間を置いてから、品物をカウンターへ戻した。
「申し訳ございません。こちらは着用の跡と香りが確認できますので、規約どおりの対応となります」
女性は眉を寄せた。
「でも、一回ですよ?それでもダメなんですか?」
「はい。申し訳ありませんが、商品の状態で判断しておりますので、今回は返品をお受けできません」
「そんな…。5千円もしたのに」
店長は声を荒らげることもなく、静かに続けた。
「お気持ちは分かります。ただ、ほかのお客様へ販売できる状態かどうかで判断していますので、今回も規約どおりの対応となります」
女性は何か言いかけたものの、そのまま口を閉じた。
店長もそれ以上は説明を重ねず、カットソーを女性の側へそっと戻した。
少しして、女性が息を吐いた。
「……分かりました」
カットソーは再び袋へ入れられた。壁の時計を見ると、店長が出てきてから3分ほどしかたっていなかった。
女性が店を出ると、止まっていた列が少しずつ動き始めた。
店長は隣のレジを開け、待っていた人たちへ声をかけた。
「大変お待たせいたしました。お次のお客様、こちらへどうぞ」
私の前にも次のお客様が進んできた。
「お待たせいたしました」
そう声をかけて商品を受け取り、バーコードを通す。いつもの電子音が鳴り、レジの前は少しずつ普段の空気に戻っていった。
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた30代女性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














