「住人の皆様の幸せを願って、宝くじを30枚買いました」掲示板を埋めた大家さんの張り紙。今朝見つけたうちの部屋番号
毎週2枚ずつ増えていった張り紙
妻と賃貸マンションで暮らして数年になる。40代の私は毎朝、階段を下りて仕事へ向かう。その踊り場には、住人向けの掲示板が一つ掛かっている。
貼られているのは、近くに住む70代くらいの大家さんからのお知らせだ。以前は清掃日や点検の案内など、ごく普通の内容だった。
ところが、ある時から少し様子が変わった。
「今週は階段を掃除しました」
そんな、大家さん自身がしたことの報告が貼られるようになったのだ。それだけではなく、隣には翌週の予定まで並んでいた。
ある晩、帰宅すると妻が台所から顔を出した。
「今日も増えてた?」
「うん。また2枚。『今週は階段を掃除しました』と、『来週は植木を手入れします』だって」
「またなんだ……」
妻は困ったように眉を下げた。
古い紙は剥がされないまま、新しい2枚が毎週のように増えていく。やがて掲示板は端のほうまで紙で埋まっていった。
年末になると、その中に少し変わった一枚が加わった。
「住人の皆様の幸せを願って、宝くじを30枚買いました」
当たったらどうするのかまでは、どこにも書かれていなかった。
年が明けると、内容まで変わった
年が明けると、新しい「報告」の紙は見かけなくなった。代わりに貼られるようになったのは、詩のような文章だった。
「やわらかな朝が、手すりの上で眠っています」
何度読んでも、私には何を伝えたいのかよく分からない。
紙はどれも丁寧な字で書かれ、四隅をきっちりテープで留めてある。以前の報告や宝くじの紙も剥がされず、その上や空いている場所に、新しい詩が加わっていった。
ある日曜、階段の下で大家さんと顔を合わせた。大家さんはほうきを手に、いつものように目を細めて笑った。
「いつもきれいに使ってくださって、ありがとうございます」
「いえ、こちらこそ」
「皆さんが幸せなら、それでいいんです」
そう言うと、大家さんは手すりを一段ずつ拭きながら階段を上がっていった。
その背中を見送ってから、私は掲示板には目を向けず、そのまま外へ出た。
新しい紙に書かれていたもの
大家さんから何かをされたわけではない。責められたことも、無理な要求をされたこともなかった。
ただ、ほかの部屋の住人は、気づくといつの間にか入れ替わっていた。それが掲示板と関係しているのかは分からない。
その晩、妻がぽつりと言った。
「あんまり関わらないほうがいいよね」
「うん。こっちからは何も言わないでおこう」
そう決めて、私たちは今も同じ部屋に住んでいる。掲示板の前では、なるべく足を止めないようになった。
そして今朝。
いつものように階段を下りていると、掲示板に新しい紙が一枚増えていた。
やさしい言葉が数行並んでいる。
そのいちばん下には、うちの部屋番号が書かれていた。
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた40代男性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














