tend Editorial Team

2026.08.10(Mon)

「いつかあなたの娘にも着てもらえたらいいねえ」帯を締めてもらっていた私が返事に詰まった瞬間。叔母が挟んだ短い一声

「順番でいくと、次は女の子ねえ」帯を締めてもらっていた私の胸が冷えた瞬間。叔母が挟んだ短い一声

祖母の着物を着ることになって

親戚の集まりがある日、私は祖母が大切にしていた着物を着ることになりました。

着付けをしてくれたのは叔母です。畳の部屋で腰紐を締めてもらっている間、祖母は少し離れた座布団に座り、うれしそうにこちらを眺めていました。

「やっぱり似合うねえ」

この着物は、昔は母も何度か着たことがあるそうです。私も子どものころから箪笥にしまわれているのを見ていたので、実際に袖を通すと少し不思議な気持ちになりました。

「苦しくない?」

叔母に聞かれ、私は「大丈夫」と答えました。

祖母も機嫌がよく、昔この着物を着て出かけたときの話などを楽しそうにしていました。

何気なく出た祖母の一言

叔母が帯を整えているとき、祖母が私を見ながら言いました。

「これ、いつかあなたの娘にも着てもらえたらいいねえ」

本当に、何気ない口調でした。

祖母に悪気がないことも分かっています。着物を大切にしてきたからこそ、この先も家族の誰かに着てほしいと思ったのでしょう。

それでも私は、すぐには返事ができませんでした。

私はまだ結婚もしていませんし、将来子どもを持つかどうかも分かりません。まして、その子が女の子かどうかなんて、ずっと先の話です。

「……そうだね」

とりあえずそう返しましたが、少しだけ居心地の悪さが残りました。

祖母からすれば未来の楽しみを口にしただけなのでしょう。それだけに、「そんな先のことまで決まっているように言われてもな」とも言いづらかったのです。

叔母がさらりと返した言葉

すると、帯揚げを整えていた叔母が手を止めることなく言いました。

「まあ、そのとき着たい人がおったらでよかたい」

祖母は少しだけ間を置いてから、

「それもそうやね」

と笑いました。

それ以上、誰もその話を続けませんでした。

叔母も祖母を注意したわけではありませんし、私の気持ちを代わりに説明したわけでもありません。ただ、先のことは先のこと、と軽く話を戻してくれただけでした。

「はい、できたよ」

叔母に言われて鏡を見ると、さっきまで少し気になっていたことも、いつの間にか薄れていました。

祖母は鏡越しに私を見て、「きれいねえ」とうれしそうに笑っていました。

家族だからこそ、悪気のない一言に返事に困ることがあります。あのとき叔母がさらっと話を流してくれたことを、今でもありがたく覚えています。

※tendが独自に実施したアンケートで集めた、20代・女性読者様の体験談をもとに記事化しています

※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。

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