「悪い、今月だけちょっと助けて」兄に貸した2万円。1年近く返ってこなかったお金と母に話さなかった事実
母から聞いた、兄のこのごろ
母から電話があったのは、兄に2万円を渡してから半年ほど過ぎたころだった。
兄は最近よく出かけているらしく、母は明るい声でその話をしていた。
「この前も出かけてたみたいよ。元気にしてるみたい」
「へえ…そうなんだ」
「何よ、その返事。何かあった?」
「ううん。元気ならいいよ」
そう答えながら、私は貸した2万円のことを思い出していた。
兄から「悪い、今月だけちょっと助けて」と頼まれたときは、「来月には返すから」と言われていた。
ところが翌月になると、「ごめん、今ちょっと厳しい」と言われた。その次は「まとまって入ったら返すから」。私も何度も催促するのが嫌で、そのまま待っていた。
母に言えば、きっと兄へ何か言うだろう。そして今度は、母まで「ちゃんと返してもらった?」と心配するようになる。
それも嫌で、私は2万円のことを話さなかった。
母からその電話があったあとも時間は過ぎ、貸してから1年近くになっていた。
紙を一枚だけ渡して、あとは待った
兄に直接切り出したのは、実家へ行った日に玄関先で顔を合わせたときだった。
「ねえ。前に貸した2万円なんだけど…そろそろ返してほしい」
靴を履きかけていた兄の手が止まった。
「え、今?急に言われても無理だよ」
「急にって……もうずいぶん待ってるよ」
「分かってるけどさ。今すぐ出せって言われても困るって」
「今すぐなんて言ってないよ。いつ返せるのか知りたいだけ」
兄は少し面倒そうな顔をした。
「家族なんだから、そんな細かく言わなくてもいいだろ」
その言葉には、さすがに腹が立った。
「家族だから今まで待ってたんだよ」
兄は何も返さず、そのまま家を出ていった。
次に会ったとき、私は同じ話を繰り返すのが嫌で、一枚の紙を持っていった。書いたのは「2万円」と、返す日を書き込める欄だけだった。
「これ、何?」
「返せる日だけ書いてほしい」
「いや、今は分かんないって」
「今日決めなくてもいいよ。でも、分かったら日にちを書いて教えて。私も何度も聞きたくないから」
兄は紙を見たまま、しばらく黙っていた。
「…分かったよ」
その日は、それ以上何も言わなかった。
それから半月ほどたったころ、今度は兄のほうから声をかけてきた。
「あのさ…この前の金なんだけど」
私は兄の顔を見た。
「うん」
「今月返すよ」
思っていなかった言葉に、私は一瞬返事が遅れた。
「……本当に?」
「うん。紙にも書いた。今月の25日」
「分かった。じゃあ、その日ね」
「遅くなって、ごめん」
「うん。ちゃんと返してくれたら、それでいいよ」
それだけの会話だった。それでも帰り道、肩の力が少し抜けたのを覚えている。
約束の日、兄は封筒を持ってきた。
「はい。これ」
「ありがとう」
「……ほんと、遅くなって悪かった」
「もういいよ」
封筒には2万円と、あの紙が入っていた。空いていた日付の欄には、約束した日付が書かれていた。
母には、結局このことを一度も話していない。
その後の電話でも、母は兄の話をした。
「最近また出かけてるみたいよ」
今度は私も、少しだけ気楽に返すことができた。
「そうなんだ。元気ならいいね」
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた30代男性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














