「残高が足りません。不足額は30円です」バスの乗車賃が足りない客。だが、思わぬ要望に唖然
30円足りず、止まった乗車口
夕方のバス停は、帰宅する人たちでいつもより混んでいた。
私の前には50歳くらいの男性が立ち、その後ろに私、さらに紙袋を提げた年配の女性が並んでいた。
バスが到着し、男性が乗り込んでカードを読み取り機にかざした。
ところが、聞こえたのはいつもの音ではなくエラー音だった。
「残高が足りません。不足額は30円です」
運転手さんにそう言われると、男性はその場で足を止めた。
「30円くらい、いいでしょ。まけてよ」
運転手さんは少し困った表情を見せながらも、落ち着いた声で答えた。
「申し訳ありませんが、お支払いをお願いします」
「融通きかないね」
男性はため息をつき、そのまま動こうとしなかった。
後ろから聞こえた、静かな一言
気づけば、私たちの後ろには5〜6人が並んでいた。
腕時計を見る人もいれば、黙ったまま待っている人もいる。けれど、誰も男性に声をかけようとはしなかった。
運転手さんも言い返さず、運賃箱を示しながら案内を続けた。
「不足分の30円をお願いします。両替もできます」
男性は返事をしなかった。
それでも運転手さんは、同じ内容を落ち着いた声で伝えた。
男性につられて声を荒らげることはなかった。
そのときだった。
私の後ろにいた年配の女性が、紙袋を持ち直して男性に声をかけた。
「すみません。後ろ、みんな待ってますよ」
強く責めるような言い方ではなかった。
男性は少し黙ったあと、後ろの列を振り返った。それから財布を開き、30円を運賃箱へ入れると、そのまま車内の奥へ歩いていった。
運転手さんが最後まで変えなかった態度
私が乗り込むと、運転手さんは小さく会釈をした。
最後の乗客が乗り終えると、ドアが閉まる。
「大変お待たせいたしました。発車いたします」
何事もなかったような、いつも通りの声だった。
たった30円のことでも、運転手さんが勝手に「いいですよ」と済ませるわけにはいかなかったのだと思う。
それでも男性に言い返すことなく、同じ案内を繰り返していた姿が印象に残った。
そして、誰かを強く責めるでもなく「みんな待ってますよ」と伝えた女性の一言で、ようやく乗車口が動き出した。
翌日になっても、その場面が妙に頭に残っていた。
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた30代女性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














