「切らないで」と隣人に止められた庭木。去年4万円かかった請求書を見せると返ってきた言葉
クリアファイルに入れた4万円の請求書
去年の秋、庭の木の剪定を初めて植木屋さんに頼んだ。
家を買ったときから植わっていた一本で、放っておくうちに二階の窓に届くほど伸びていた。
届いた請求書を見た妻が、思わず声を上げた。
「4万円?木一本で?」
「高いところの作業だから、これくらいかかるみたい」
妻は請求書をクリアファイルに入れ、表に油性ペンで大きく書いた。
「去年の業者代は4万円だった庭の木」
そして僕を見て笑った。
「来年はこれ見て、自分でやる気を出してね」
言われたとおり、今年の春に電動の剪定ばさみを買った。買って最初の土曜日、脚立に乗って下の枝から切っていると、塀の向こうから隣のおばあさんが声をかけてきた。
「あら、それ切るの?」
「ええ。だいぶ伸びてきたので」
「その木の影、夏はうちの庭まで来て涼しいのよ。できれば、あまり切らないでほしいんだけどねえ」
70代くらいで、いつも花壇の手入れをしている人だ。強い言い方ではなかったぶん、僕も「うちの木なので」と押し切れず、その日は脚立を下りた。
次の週末にも、また同じように「切らないで」と言われた。結局、その日も途中でやめてしまった。
それからは、おばあさんの家の車がない時間を選び、少しずつ枝を落とすようになった。
「自分の家の木なのに、どうして隠れるみたいに切ってるの」
妻にそう言われても、返す言葉がなかった。
塀越しに差し出した請求書
梅雨の晴れ間の午後、枝を切っていると、また塀の向こうから声がした。
「また切ってるのね。涼しいのがなくなっちゃうわ」
僕は剪定ばさみのスイッチを切り、家の中からあのクリアファイルを持ってきた。中の請求書を一枚取り出し、塀越しに差し出した。
「これ、去年植木屋さんに払った金額です。伸びすぎると自分では難しくなって、また4万円くらいかかるんです」
「まあ……4万円?」
責めたいわけではなかった。ただ、こちらにも木を切る理由があることを分かってほしかった。
おばあさんは請求書の金額を見てから、木を見上げた。少し黙ったあと、小さく息をついた。
「…それは困るねえ。分かった、切っていいよ」
「ありがとうございます」
請求書を返してもらい、僕は残していた枝もその日のうちに剪定した。
数日後、隣の庭を見ると、物干し台の脇に背の高いすだれが立っていた。おばあさんはその陰に椅子を出して、麦茶を飲んでいた。
「すだれ、いいですね」
声をかけると、おばあさんは笑った。
「ええ。これなら、木を残してもらわなくても涼しいからね」
木を切ることを気にしていた僕も、その言葉を聞いてようやく肩の力が抜けた。
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた40代男性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














