「一歩も動きたくない…」雨上がりの濡れたベンチに座ろうとした私。だが、そんな私に向けられた男子高校生の優しさとは
濡れたベンチと、泥だらけのヒーロー
仕事終わりの駅前。体にまとわりつくような、ねっとりとした熱気。
40代も半ばを過ぎると、一日の終わりの疲労感は「重り」のように足腰に蓄積していく。
一歩踏み出すたび、ふくらはぎがパンパンに張って悲鳴を上げているのがわかる。
「はぁ……。もう、一歩も動きたくない……」
そんな独り言が漏れた瞬間、追い打ちをかけるように空が急変。
バケツをひっくり返したような夕立が、アスファルトを激しく叩きつけ始めた。
慌てて逃げ込んだ駅前の大屋根。
20分ほど立ち往生してようやく雨は上がったものの、待っていたのは、さらに蒸し暑さを増した湿った空気。
「余計にひどくなったみたい。座りたい……。でも……」
バスを待つ間、どうしても足を休めたくてベンチに目を向ける。けれど、そこにあるのは無情にも雨水をたっぷりと吸った、びしょ濡れの木。
「……やっぱり、無理よね」
がっかりして、重いバッグを肩にかけ直した、その時。
男子高校生の優しさ
「あ、これ。今すぐ座れるようにしますね!」
不意に横から届いた、弾むような声。
見れば、泥だらけのユニフォームを着た男子高校生が、私とベンチを交互に見ていた。
「えっ?」
驚く私をよそに、彼はスポーツバッグをガサゴソと探ると、使い込まれた大きなタオルを引っ張り出した。そして、迷いなくベンチの雨水をダイナミックに拭き始めたのだ。
「ちょっと待って!それ、自分のタオルじゃないの?汚れちゃうわよ」
慌てて制止する私。
すると彼は、タオルを動かす手を止めず、ニカッと白い歯を見せて笑った。
「あはは、いいんっすよ!さっきお姉さん、すごく足が痛そうにベンチ見てたから。自分、これでも部活で鍛えてるんで体力はあるけど、お疲れの人は座らないと!」
私の小さな視線の動きに、彼は気づいていたのだ。
手際よく、あっという間に水気が拭き取られていくベンチ。
「はい、お待たせしました! 乾きましたよ」
「……本当に、いいの? ありがとう、助かるわ」
彼に促されるまま、恐る恐る腰を下ろす。
伝わってきたのは不快な湿り気ではなく、しっかりと水気が引いた木の、どこか温かい感触。
その瞬間。
すーっと、驚くほど冷たくて心地よい風が、広場を通り抜けていった。
「……あ、涼しい……」
「あ、本当だ。雨上がりの風、最高に気持ちいいっすね!」
スマホを取り出しながら、隣で何気なく笑う彼。
その屈託のない優しさに触れた途端、体に溜まっていたドロドロとした疲れが、この涼風と一緒にどこかへ吹き飛んでいくような感覚に包まれた。
ただの通り雨が、彼のおかげで、今日一日を締めくくる「最高のご褒美」に変わった瞬間。
乾いたベンチから見上げた夕焼け空。
それは驚くほど鮮やかで、私の心はこれ以上ないほどスカッと、晴れやかに澄み渡っていた。
※tendが独自に実施したアンケートで集めた、40代・女性読者様の体験談をもとに記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














