「お、なに作ってるの?」帰宅した夫に献立を伝えると、急に義母に電話をかけた。理由に気づいた時、思わず背筋が凍った
夕方の台所で取った行動
新婚の家の台所で、もやしを湯がきながら時計を見上げると、夫の帰宅時間まであと少しでした。
その日のメニューは、もやしのポン酢和え。
シンプルだけれど、私の中では実家から続く「自分の味」のひとつです。
湯気を立てるザルの隣で、ポン酢を回しかけ、ごま油を垂らし、すりごまを散らして混ぜる。
そろそろ夫が帰ってくる頃だな、と耳をそばだてていたら、玄関の鍵が開く音がしました。
夫はリビング越しに台所の私を見つけて、ネクタイを緩めながら聞いてきます。
「お、なに作ってるの?」
私は手を動かしたまま、いちばん想像しやすい言い方を選びました。
「義実家のもやしの和物みたいなものだよ」
先日帰省したときに義母が出してくれた小鉢が記憶に残っていたので、軽い会話のつもりで、近い料理として喩えに出したのです。
スマホを耳に当てる夫と、止まった私の手元
けれど、夫の反応は、私の想像とは少し違っていました。
「あぁ、あれか」
夫はそうつぶやくと、当たり前のような所作でスマホを取り出し、画面に指を一回滑らせます。
そして、何の前置きもなく、耳に当てたのです。
「あ、母さん?ちょっといま味付け教えてほしいんだけど」
受話器の向こうの相手が、すぐに義母だとわかりました。
私の手は、ぽたぽたとポン酢を垂らしているところで、止まったまま動けません。
もやしのザルから、最後の水気がぽつんと落ちる音が、妙にはっきりと聞こえました。
テーブルにあがる料理は、私が「自分の味」として作ろうとしていたもの。
義母の小鉢に「似ている」と説明しただけで、別の家庭の別のレシピとして仕上げる予定でした。
それが、私の発した一言から、夫の頭の中ではいつのまにか「義実家の味そのものを再現するセッション」に切り替わっていたのです。
受話器の向こうから、義母の明るい声が、台所の壁にまで届くくらいに漏れ聞こえてきます。
「麺つゆを少しと、塩ひとつまみと、ごま油は気持ち多めだって」
夫は私のほうを振り向いて、嬉しそうにメモを伝えてきました。
背中の真ん中を、冷たい指でなぞられたような感覚。
マザコン、という言葉が頭の中で一度大きく光って、すぐに消えました。
新婚の台所のはずなのに、夫の中で「正解の味」は、ずっと義母のレシピに紐づいている。その事実が、湯気の立つ夕方の台所に、薄く冷気を走らせた瞬間でした。
反論する気力は、もうわきません。私は黙って手を動かし、義母から伝えられた配合で和え物を仕上げました。
食卓にあがったもやしを夫は美味しそうに頬張り、「やっぱりこの味だね」と笑いました。
その笑顔の隣で、私は背中に走ったあの冷気の感触だけを、まだ静かに思い返しているのです。
※tendが独自に実施したアンケートで集めた、20代・女性読者様の体験談をもとに記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














