「犯人探しみたいになるのも嫌です」荒れていた集積所。誰が捨てたか分からないまま、集積所がきれいになった理由
冬のあいだ、同じ袋が残り続けていた
四十代になってから、休みの日でも六時前に目が覚めます。
集合住宅の一階、出入り口の近くにある集積所は、外へ出るたびに目に入る場所でした。
その集積所が、冬のあいだずっと荒れていたのです。
分別されていない袋が回収されず、次の日も、その次の日も同じ場所に残っています。
網からはみ出した袋が雨に濡れ、近くを通ると嫌な臭いがする日もありました。
管理の人にも相談しました。
「これ、また残っていますよね。何とかならないでしょうか」
管理の人も袋を見ながら、困ったように眉を下げました。
「そうなんですよ。私も気になっていて…。でも、誰が出したものか分からないんです」
名前が書いてあるわけでもありません。だからといって、袋を開けて持ち主を探すわけにもいきませんでした。
ある朝には、回収されなかった袋が3つ並んでいました。ちょうど前を通った住人に、一度だけ声をかけたこともあります。
「すみません。この袋のこと、何かご存じないですか?」
相手は足を止めると、少し驚いた顔をしました。
「え?いや、うちのじゃないですよ。本当に違います」
責めたつもりはなかったのですが、相手が身構えたのが分かり、私は慌てて首を振りました。
「あ、すみません。決めつけたわけじゃないんです」
それ以上は聞けませんでした。
結局、誰が出したものなのか分からないまま、冬が終わりかけていました。
誰かを探すより、みんなで見ることにした
冬の終わりに住人の集まりがあり、集積所のことも話題になりました。
私はそこで、誰が出したのか探すのではなく、集積所を見る人を順番に決めてはどうかと提案しました。
「犯人探しみたいになるのも嫌ですし…朝にちょっと見る人だけ、順番で決めませんか」
向かいに座っていた住人が、少し考えてからうなずきました。
「見るだけでいいなら、うちもできますよ」
別の人からは、こんな声も上がりました。
「でも、残っていたら片づけるんですか?それだとちょっと大変かも」
「そこまではしなくていいと思います」
私はそう答えました。
「蓋を開けて様子を見るだけ。何かあったら管理の人に伝えるくらいで」
「ああ、それならできそうですね」
張っていた空気が、少しだけやわらぎました。
管理の人も話を聞きながらうなずきました。
「じゃあ、今日から当番を回してみましょうか。誰が何曜日を見るか、ここで決めてしまいましょう」
その場で順番を決め、簡単な当番表が作られました。役目はあくまで朝に集積所を確認すること。残った袋を持ち帰ったり、中身を調べたりする必要はありません。
その日のうちに、掲示板にも当番表が貼られました。
その横には、燃えるもの、瓶と缶、古紙を色分けした大きな絵も並びました。文字をたくさん読まなくても、出し方が分かるようになっていました。
さらに回覧でも、当番を始めることが知らされました。
集まりで一度、掲示板で一度、回覧で一度。「今日から当番を回します」という内容は、全部で3度、住人に伝わる形になりました。
誰かが見られていることを気にしたのか、分別の絵が役に立ったのか、本当の理由は分かりません。
ただ、翌週になると、回収されずに残る袋は目に見えて減りました。
当番の日に蓋を開けても、きちんと分けられた袋が収まっているだけ。
確認して閉めれば、それで終わります。
さらに何週間かすると、回収後に袋が残っている日はなくなりました。雨の日に気になっていた臭いも、春になるころにはしなくなっていました。
当番表が最後の人まで一巡した朝、確認を終えた住人と入口ですれ違いました。
その人は集積所を振り返りながら、笑って言いました。
「最初は面倒かなって思ったんですけど、これなら全然苦じゃないですね」
「ほんとですね。開けて見るだけで終わりますし」
私もそう返しました。
誰が問題の袋を出していたのかは、最後まで分かりませんでした。
それでも、誰か一人を追いかけるのではなく、みんなが少しずつ気にする仕組みに変えたことで、集積所は以前の静かな状態に戻っていました。
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた40代男性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














