「あの服、私のよね」捨てたはずの服を着ている近所の住人。我慢出来なかった私が取った対策とは
見覚えのあるシルエット
断捨離をするたび、私は着古した服をまとめて捨てていた。
裾のほつれたワンピース、首回りの伸びたTシャツ。前の晩に袋へ詰めて集積所に出すのが習慣だった。
ある日、買い物帰りの道で、見覚えのあるシルエットとすれ違った。
「あの服、私のよね」
首回りの伸び方も色あせ方も、間違いなく先週捨てたTシャツだった。それを近所の女性が、普段着として歩いている。
「あら、いいお天気ね」
彼女は私のTシャツを着たまま、にこやかに会釈してきた。
「……ええ、本当に」
相づちを打つのが精一杯だった。自分の捨てた服が、こんなに近くを歩いているなんて。
袋の前で
その正体がはっきりしたのは、収集日の朝だった。集積所で、彼女が私の袋の結び目をほどいていた。
「捨てるならもったいない」
「これ、まだ十分着られるじゃない」
「それ、ずいぶん傷んでいるものですが……」
「傷んでたって着られるのよ。あなたには分からないでしょうけど」
悪びれる様子もなく、彼女は服を選り分けていく。
気に入った一枚を腕にかけ、もう一枚を広げて眺めた。
「これも頂くわね。あなた、いいもの捨てるじゃない」
私はその手元を見ていることしかできなかった。捨てたものだと言い聞かせても、気まずさは消えない。パジャマ代わりの服をすぐそこの人に着られている。その落ち着かなさだけは、どうしても残った。
回収日の朝に
もう前の晩には出さない。出すのは収集車が来る当日の朝、それも回収の直前だ。袋も、中身が見えない不透明なものに替えた。
その朝も、彼女は早くから集積所をうろついていた。けれど、私の袋はまだそこにない。
「あなた、今日は出さないの?」
「今、出しに行くところです」
「最近、出すのが遅いわね。前みたいに早く出してくれない?」
「収集の時間ぴったりに出したいので、これでいいんです」
声をかけられても、私はトラックの音が近づくのを待って袋を置いた。彼女が結び目に手をかける暇もなく、袋は荷台へ消えていく。
その次の回収日、二階の窓から外を見ていた私は、集積所に立つ彼女に気づいた。並んだ不透明な袋の前で、迷うように立ち止まっている。
一つの袋に手を伸ばし、持ち上げかけて、中が見えないと知ると静かに戻す。隣の袋ものぞき込むが、どれが誰のものか分からない。結局、彼女は何も手に取らず、うつむいて帰っていった。
それきり、彼女が集積所に張りつくことはなくなった。道で私の古着を見かけることも、ぴたりと止んだ。自分の服を着た他人とすれ違って目を逸らす、あの日々が嘘のようだ。捨てた服のその後を、もう誰にも見られていない。たったそれだけで、毎朝の足取りが軽くなった。
※tendが独自に実施したアンケートで集めた、50代・女性読者様の体験談をもとに記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














