「どうして、うちの荷物を受け取るんですか」隣の荷物を預かった私。翌朝、配達員さんが伝えた事情
若い頃、隣の荷物を預かった日
これは、私がまだ若かった頃の話です。
当時、妻と二人で暮らしていた一戸建ての隣には、50代くらいのご夫婦が住んでいました。会えば会釈をする程度で、ゆっくり話したことはほとんどありませんでした。
ある日の午後、居間で新聞を読んでいると、宅配便の配達員さんがうちのチャイムを鳴らしました。この辺りをよく回っている、30代くらいの男性でした。
「すみません。お隣がお留守でして。こちら、預かっていただけませんか」
「ええ、いいですよ。帰ってこられたら渡しておきます」
その頃は、近所の家で荷物を預かることも今ほど珍しくありませんでした。私も深く考えず、両手で抱えるほどの箱を受け取りました。
夕方、お隣の車が戻ったのが見えたので、箱を抱えて玄関先へ向かいました。
「こんばんは。昼間に荷物が届いたので、預かっていました」
ところが、奥さんは箱を見るなり表情を曇らせました。
「どうして、うちの荷物をよそのお宅が受け取るんですか」
思いがけない反応に、私は戸惑いました。
「えっ…配達員さんに頼まれたんですよ」
「でも、そういうのは困るんです。人に見られたくない物だってありますから」
「もちろん、中を見たりはしていませんよ。ただ、預かってほしいと言われたので……」
そう説明しても、奥さんの表情は硬いままでした。
「だから、勝手に受け取られるのは困るんです」
私ももう一度、「配達員さんに頼まれただけなんです」と伝えましたが、話はかみ合いません。
結局、奥さんは箱を受け取ると、そのまま家の中へ入っていきました。
良かれと思ったことが裏目に
家へ戻ると、妻が心配そうに声をかけてきました。
「ずいぶん長かったわね。何かあったの?」
「ちょっとね。荷物を預かったことで、怒られてしまって」
「えっ、配達員さんに頼まれたんでしょう?」
「そうなんだけどね。勝手に受け取られるのは困るって」
妻も困ったような顔をしていました。
私としては、良かれと思って引き受けただけでした。ただ、たとえ当時は近所で荷物を預かることが珍しくなかったとしても、誰もがそれを歓迎するとは限りません。
もう余計なことはしないほうがいいのかもしれない。そんなことを考えながら、その日は眠りました。
翌朝、配達員さんが伝えた事情
翌朝、門の前を掃いていると、昨日の配達員さんが小さな箱を抱えてお隣へ向かってきました。
玄関から出てきた奥さんに箱を渡したあと、配達員さんが昨日のことを話し始めました。私は門の前にいたので、そのやり取りが聞こえてきました。
「昨日は失礼しました。お留守だったので、私からお隣の方にお願いして預かっていただいたんです」
奥さんは少し驚いたように顔を上げました。
「そうだったの……」
「ご迷惑でしたら、次からは持ち帰りますので」
配達員さんが頭を下げて立ち去ると、奥さんはしばらくその場に立っていました。
やがて、ほうきを持った私のほうへゆっくり歩いてきました。
「……昨日は、ごめんなさいね。私、てっきり……」
「いえいえ。こちらこそ、気にしないでください」
奥さんの表情は、昨日とは違ってやわらいでいました。
それからは、ゴミ出しの朝に顔を合わせると、奥さんのほうから先に挨拶をしてくれるようになりました。
しばらくして、玄関先で呼び止められたこともあります。
「今度、家を空けるとき、荷物をお願いしてもいいかしら」
奥さんが少し照れたように笑ったので、私も笑ってうなずきました。
あの日は気まずい思いをしましたが、きちんと事情が伝わったことで、むしろ以前より挨拶を交わす関係になりました。
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた60代以上男性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














