「ご収入は今、おいくらなの?」結婚の話題から仕事へ踏み込んできた伯母→曖昧に笑うしかなかった
親戚の食卓で始まった世間話
父方の家に親戚が集まった日のこと。
料理が運ばれてきて、いとこ家族や伯父伯母が並ぶ食卓は、和やかと言えば和やかだった。
久しぶりに会う顔ぶれに、近況の挨拶がひと通り回り、空気はゆるんでいた。
「まだ結婚しないの?」
向かいの伯母が、笑顔のまま私に話を振った。
30代後半の独身男性に対する、ほぼ恒例のセリフ。
周りの伯父やいとこの奥さんも、軽い相づちで同じ方向に乗ってくる。「いい人いないの」「焦らせちゃダメよ」と続く声は、誰のためのものでもなかった。
悪意はない。それはわかっている。だからこそ、当たり障りなく流すしかなかった。
「いやあ、まだ縁がなくて」と笑って、箸を動かす。煮物の味は、ふだんならもっと染みていたはずだった。
話題は仕事と収入へ移っていった
結婚の話で笑いをひとしきり取ったあと、伯母は流れるように次の話題へ移った。
「ご収入は今、おいくらなの?」
お茶の話でもするような口ぶりだった。
一瞬、箸が止まる。年収の数字を笑顔で問われることに、こちらの感覚が追いつかない。
ボーナスはどう、家賃はいくら、貯金は。質問は静かに重なっていく。同調する伯父、苦笑するいとこ。誰も止めない。
(ここで怒ったら、空気が壊れる)
その判断ばかりが先に立って、私はまた曖昧に笑った。
逃げ場のない食卓で、相手が望む薄いリアクションを返し続ける。料理の味はほとんどわからなくなっていた。
何も言い返せなかった夜の余韻
会場を出て、両親の車に乗せてもらった。後部座席に背を預けると、ようやく肩の力が抜ける。窓の外を流れる夜の景色が、いつもより少しぼやけて見えた。
「ああいうの、気にしなくていいからな」
運転席の父が、信号待ちで短くそう言った。母も小さくうなずく。たったそれだけだったのに、胸の奥に固まっていた何かが、少しほどけたのを感じた。
救われたのは確かだ。それでも、何も言い返せなかった自分への落ち込みは、しばらく抜けなかった。あの場で、もっと違う返し方ができたんじゃないか。年収の質問にだけでも、笑顔で線を引けたんじゃないか。考えても答えは出ない。
親戚だからこそ、遠慮と本音が混ざる。あれが他人なら笑って受け流せるのに、血のつながりがあるぶん、強く線を引くのも怖い。距離の取り方の難しさを、あの食卓で改めて思い知った夜だった。次の集まりはたぶん来年の正月、また同じ顔ぶれが並ぶのだろう。それまでに、笑顔のまま線を引く返し方をひとつくらいは持っておきたい。
※tendが独自に実施したアンケートで集めた、30代・男性読者様の体験談をもとに記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














