「これ、ほぼ私が組んだ企画なんですけど」会議室を出てから絞り出した一言→直属の課長から返ってきた軽い一言に残った沈黙
張り詰めた最終報告の空気
前職で任された企画は、骨組みから資料作りまで、ほとんど私一人で進めたものでした。アンケート集計も、競合の比較表も、提案の流れも、ぜんぶ自分の手で組み立ててきたのです。
直属の課長には進捗だけ共有し、ざっくりとしたコメントをもらうだけ。最終報告の日も、当然自分が説明するつもりで会議室に入りました。
役員席が並ぶ前に、課長と私が座ります。
ホワイトボードには、私が何度も直した提案書。
「では、進めさせていただきます」
そう切り出したのは、課長のほうでした。私が口を開く隙もなく、流れるような口ぶりで、まるで全部自分の発想だったかのように資料を読み上げていったのです。
「特にこの導入部分は、効果が大きいと考えております」
低めのトーンの「考えております」に、私は思わず指先を握りしめていました。考えたのは私のはず。けれど場の空気は、すっかり課長を中心に流れていきます。
役員からの質問にも、すべて自分で答え、頷き合っていく課長。私は資料を繰る手だけが動いていました。
廊下で絞り出した一言
会議が終わり、ぞろぞろと役員が出ていく中、私はぐっと拳を握って課長に話しかけました。
「これ、ほぼ私が組んだ企画なんですけど」
声が震えそうなのを、なんとか抑えました。一言くらい名前を出してほしかった、それだけを伝えたかったのです。
課長は少し驚いた顔をしてから、すぐに穏やかな笑みに戻りました。
「うん、まあ、チームの成果ってことで」
それきり、廊下を先に歩いていく背中。私の足だけが止まっていました。
その夜、家のキッチンでマグカップを温めながら、私は天井を見上げていました。仕事は評価されたはず。なのに自分の名前は、誰の記憶にも残っていない感覚。
翌朝、デスクに向かう足取りが、少しだけ重くなっていたのです。それは、悪意のある人と戦った疲れではなく、誰にも届かない努力をしてしまったあとの、独特の重さでした。
同期に愚痴を聞いてもらっても、心はあまり軽くなりませんでした。求めていたのは「大変だったね」という同情ではなく、「あれは君の仕事だったって誰かにちゃんと言ってほしかった」という、それだけの単純な一行だったのだと思います。
誇るべき成果は、確かに一つ自分の中に残りました。次の企画書を開く時、私は静かに自分の名前を一行目に書き入れました。誰のためでもなく、これだけは譲らないと決めた、自分のための小さな線引きだったのです。
※tendが独自に実施したアンケートで集めた、30代・女性読者様の体験談をもとに記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














