「この子まだ小さいから。ちょっと譲ってくれる?」ブランコの列に入った親子。だが、黙っていた父親が声をかけた理由
列の脇を、そのまま通り過ぎた
二年ほど前、下の子を連れて夕方の公園に行ったときのことだ。
私はブランコから少し離れたベンチにいて、砂遊びの道具を袋にしまいながら、子どもたちの声を聞くともなく聞いていた。
空はもう夕焼けの色に変わりかけていた。
ブランコは2台しかなく、その日は小学生くらいの子が何人か順番を待っていた。
押し合うこともなく、乗っている子が降りると先頭の子が乗る。
そんな流れで、しばらく静かに回っていた。
そこへ、年長さんくらいの女の子の手を引いた母親がやってきた。
母親は列の横を通り、そのままブランコの近くへ。
ちょうど一人が降りると、女の子の背中を軽く押した。
「ほら、今空いたよ。早く乗っちゃいな」
女の子が座ろうとすると、先頭にいた男の子が戸惑った顔をした。
「あの…ぼく、次なんだけど」
母親は男の子を見て、少し驚いたように答えた。
「え?でも、この子まだ小さいから。ちょっと譲ってくれる?」
「でも、ずっと待ってたよ」
「一回くらいいいじゃない。ね?」
男の子はうしろの子を振り返った。もう一人の子も何も言えず、黙ったまま立っていた。
母親はもう一度、「小さい子なんだから、お願い」と言った。
責めるような大声ではなかった。それでも、子どもだけで言い返すには十分強い口調だったのだと思う。
男の子は「もういいや」と小さく言って、砂場のほうへ歩きだした。ほかの二人も、そのあとについていこうとした。
離れかけた子どもを、父親が呼び止めた
そのとき、私の二つ隣のベンチにいた男性が立ち上がった。先ほどから並んでいた男の子の父親だった。
それまでは子ども同士でどうするのか見ていたようだったが、息子が列を離れたところで声をかけた。
「ちょっと待って。戻っておいで」
男の子が振り返る。
「でも、もういいよ」
「いいから。ちゃんと並んでたんだろ?」
父親は男の子のそばまで行くと、今度は母親のほうを向いた。
「すみません。この子たち、さっきから待ってたんです」
母親は一瞬黙ったあと、少し困ったような顔をした。
「でも、まだ小さいので…少しくらい先でもいいかなと思って」
「小さいのは分かります。でも、みんな順番を待ってたので」
父親も声を荒らげることはなかった。ただ、それ以上は引かないという感じで、男の子の横に立っていた。
母親はブランコに座った娘を見て、それから並んでいた子どもたちを見た。
「……そっか。ごめんね」
そして娘のそばへ行った。
「ごめん。一回降りよう。ちゃんと並ぼうか」
「えー、まだ乗りたい」
「うん、分かる。でも順番だって。並んだらまた乗れるから」
女の子は納得していない顔をしていたが、母親に手を取られるとブランコを降りた。
先ほど離れかけた子どもたちも戻り、また小さな列ができた。
男の子がブランコに乗ると、父親は「よかったな」とだけ声をかけて、ベンチへ戻った。
母親と女の子も、その列の最後に並んでいた。
しばらくすると、何事もなかったようにまた順番が回り始めた。
私も帰る準備をしていると、下の子が鉄棒のほうを指さした。
「最後にあっち行っていい?」
「いいよ。じゃあ、それで帰ろうか」
夕日が低くなった公園で、ブランコはそのあとも同じように揺れていた。
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた40代女性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














