「寿司は5人前、並でいつも通りに」毎年同じ注文をする義父。私がいない時に「特上」を注文していた、義父の不器用な優しさとは
口数の少ない義父
義父は、あまり多くを語らない人でした。婿の私とも、20年つきあってなお、世間話がぽつぽつ続く程度の間柄です。帰省するたび、私はどこかで気を張っていたのだと思います。
そんな義父が、毎年きまって声を張るのが、初日の寿司の出前でした。居間の電話を取ると、いつも同じ調子でこう言うのです。
「寿司は5人前、並でいつも通りに」
いつも通り。その一言を、義父は判で押したように繰り返してきました。
5人前の中に、私の席もありました。
私は、義父にどう接していいのか、長いあいだ分かりませんでした。
無口な人ほど、何を考えているのか読めないものです。だから、あの「並で」の一言も、ただの古い口癖くらいにしか思っていませんでした。
私だけ、いなかった夏
去年の夏は、私だけが仕事で帰省できませんでした。
妻と子どもだけが、ひと足先に実家へ帰ります。
夜になって、妻から食卓の写真が送られてきました。
並んでいたのは、ウニにイクラ、頭つきのエビ。いつもの「並」とはまるで違う、豪華な握りばかりです。
「これ、いつものお店の出前だよね?」
そう送ると、妻からはすぐに返事が来ました。
今日はお父さん、特上をたくさん頼んでいた、と。
私がいる年は、決まって「並」。
いない年は、ごちそう。写真を見つめながら、20年ぶんの「いつも通り」の意味を、私は初めて考え込みました。
気づかなかった本音
電話で妻に尋ねると、返ってきた答えは、あっけないものでした。
「お父さん、あなたがいると、婿さんに気を遣わせたくないって、いつも並にしてたのよ」
気取った寿司を出せば、私が恐縮して財布を気にする。
義父は、それを避けたかったのだそうです。
だからあえて、私に聞こえるように「並でいつも通り」と宣言していた。
あの素っ気ない注文は、口下手な義父なりの、精一杯の気遣いだったのです。
私がいない夏は、その遠慮がいりません。だから義父は、心おきなく好物のウニを頼んだ。それだけのことでした。
電話を切ったあとも、私はしばらく写真を眺めていました。豪華な一皿が、義父からの不器用な手紙のように思えてきたのです。
20年、私はその本音に、まるで気づいていませんでした。今年の夏はこちらから、義父の好きなネタを一緒に頼もうと思います。並でなくていいですよ、と伝えたら、あの寡黙な義父は、どんな顔をするでしょうか。
※tendが独自に実施したアンケートで集めた、50代・男性読者様の体験談をもとに記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














