「相手弱いんだから、負けるなよ」運動会で荒い声援を続けた父親。だが、父親が静かになったワケ
応援するたびに、周囲が静かになっていった
子どもの小学校の運動会で、低学年の玉入れを見ていたときのことです。
赤組と白組に分かれた子どもたちが、地面に落ちた玉を拾っては一生懸命かごへ投げていました。
保護者席からも、「がんばれ」「あと少し」と声援が飛んでいます。
ところが、私のすぐ隣に座っていた父親だけは、少し違う応援をしていました。
「もっと投げろ!」
最初は熱が入っているだけなのだと思っていました。しかし、競技が進むにつれて言葉が荒くなっていきます。
「相手弱いんだから、負けるなよ」
「もっと攻めろって」
子どもを応援したい気持ちは分かります。ただ、楽しそうに競技をしている子どもたちに向ける言葉としては、聞いていて気持ちのいいものではありませんでした。
前の列に座っていた保護者が一度振り返り、近くのお母さんたちも顔を見合わせています。それでも、直接注意する人はいませんでした。
私も同じでした。
せっかくの運動会で言い争いになってしまったら、子どもたちまで嫌な思いをするかもしれません。そう考えると、なかなか声をかけられませんでした。
父親が大きな声を上げるたびに、周囲から聞こえていた普通の声援まで少しずつ減っていきました。
そんなとき、校庭のスピーカーから先生の声が聞こえてきました。
「保護者のみなさまに、応援についてお願いがあります」
競技を止めることなく、落ち着いた声で放送が続きます。
「子どもたちが気持ちよく競技できるよう、相手を傷つけるような言葉はお控えいただき、温かい応援をお願いいたします」
特定の人を名指ししたわけではありません。
ただ、何についての注意なのかは、周囲にいた私たちにも十分伝わりました。
隣の父親は一度スピーカーのほうを見上げると、それまでのような声を出さなくなりました。
普通の声援と拍手が戻ってきた
しばらくすると、反対側の保護者席から「がんばれー!」という声が聞こえてきました。
それにつられるように拍手が起こり、こちらの席からも少しずつ声援が戻ってきます。
「あと少し!」
「がんばれ!」
今度は相手をけなす言葉ではなく、それぞれが自分の子どもたちを応援する声でした。
隣の父親も黙ったままではありませんでした。
自分の子どもが玉を投げるたびに手を叩き、ときどき「がんばれ」と声をかけています。
それを見て、応援したかった気持ちそのものは、ほかの保護者と変わらなかったのだと思いました。ただ、熱が入りすぎて、言葉の選び方を間違えてしまったのでしょう。
やがて先生の笛が鳴り、玉入れが終わりました。
子どもたちは赤と白の帽子をかぶったまま、かごの前へ集まっていきます。保護者席からは大きな拍手が送られていました。
誰か一人を人前で責めなくても、「してほしくないこと」と「してほしいこと」を会場全体へ伝えれば、場の空気を変えられることがあります。
あのとき直接何も言えなかった私は、先生の放送を聞きながら、伝え方ひとつで受け取られ方はずいぶん違うのだと感じました。
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた30代男性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














