先輩「普通もっと早くできるけど」残業で仕上げた資料を人前で嘲笑。だが、上司の称賛で黙り込んだ
人前で投げられた言葉
締切が迫る資料を、私は一枚ずつ丁寧に組み立てていた。読む人がつまずかないように、グラフの位置も言葉の選び方も慎重に。時間はかかっても、伝わるものを作りたかった。
そんな私の手元を見て、近くの席の先輩が声を張った。
「普通もっと早くできるけど」
周りに人がいる時間帯だった。何人かが、はっとして手を止める。
「すみません、急ぎます」
反論の言葉は喉の奥に引っ込んだ。みんなの前で「遅い」と言われた恥ずかしさで、頭がうまく回らない。私はうつむいて、作業に戻るしかなかった。
夜のフロアで
定時が過ぎ、フロアから人が減っていく。それでも私は席を立たなかった。早く出すより、納得のいく一枚にしたかったからだ。
「お先に。あんまり無理しないでね」
「はい、ありがとうございます。あと少しなので」
同じ部署の人が帰り際に声をかけてくれた。私は画面に向き直り、ふたたび手を動かす。
「見出し、もう少し大きいほうがいいかな」
静まったフロアで、自分に言い聞かせるように呟いた。図の順番を入れ替え、色を整え、補足を一行ずつ吟味する。読む人が一目で理解できるか、その一点だけを考えて直し続けた。地味な作業の積み重ねだった。
仕上がったのは夜遅くだった。それでも、できることは全部やった。提出を終えて帰る道すがら、あの一言だけが、まだ胸の隅でちくちくしていた。本当にこれで良かったのか。確信は、最後まで持てないままだった。
誰が作ったの
数日後の朝、上司が一枚の資料を手にフロアへ出てきた。よく見ると、私が夜なべして仕上げたものだ。
「これ、かなり分かりやすいね。誰が作ったの?」
突然のことに、私はすぐ手を挙げられなかった。同僚たちの視線が、声の主を探すようにフロアをめぐる。
「……それ、私が作りました」
「やっぱり。説明の順番がよく練られてるよ。このまま先方に出せる出来だ」
その瞬間、フロアの空気が確かに動いた。何気ない顔をしていた人たちが、見直したようにこちらへ目を向ける。
そして、あの先輩が静かに黙り込んだ。「遅い」と言い放ったときの勢いはどこへやら、画面を見つめたまま口を開かない。周囲の視線が、その沈黙をいっそう際立たせていた。
「ありがとうございます」
上司にそう返す声が、自分でも少し弾んでいた。派手にやり返したわけではない。けれど、人前で削られた自信を、人前でそっくり戻してもらえたようだった。
あの日から、先輩が私の仕事ぶりに口を挟むことは、ぴたりとなくなった。
※tendが独自に実施したアンケートで集めた、30代・女性読者様の体験談をもとに記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














