「本気で驚いてるじゃん(笑)」背後から驚かす悪ふざけをやめない夫。だが、我慢の限界が来た瞬間
驚かせて笑う人
夫は、私を驚かせては笑う人だった。
結婚してすぐの頃から、それが挨拶みたいなものだった。
廊下の角で待ち伏せしたり、洗い物をしている背中に忍び寄ったり。
ソファでうとうとしている私の耳元で、いきなり手を叩いたこともある。
「わっ、と言っただけで、そんなに飛び上がる?」
驚いた私を見て、夫は決まって声をあげて笑った。私がむっとしても、その表情すら楽しんでいるようだった。
やめてと伝えても、「スキンシップみたいなものだろ」と取り合わない。
何度言っても、私の困り顔は夫にとって笑いの種でしかなかった。私は家の中でも、いつどこで驚かされるのかと肩に力が入るようになっていた。
落とした皿
その日、私は温かい料理を皿に移して、食卓へ運ぼうとしていた。
両手がふさがったその瞬間、背後から夫が大声を出した。いつもの、あの悪ふざけだった。
驚いて手が跳ね、皿が滑り落ちた。割れた音が、狭い台所に響いた。
もし中身が手にかかっていたらと思うと、背筋が冷たくなった。
「本気で驚いてるじゃん(笑)」
夫は足元の破片には目もくれず、私の反応だけを見て笑っていた。その顔を見て、我慢の糸が静かに切れた。
線を引く
私は割れた皿を片づける手を止めて、夫に向き直った。
声を荒げるつもりはなかった。ただ、はっきり伝えようと思った。
「もう笑えない」
静かな声に、夫の笑いがぴたりと止まった。
「え…冗談のつもりで」その先が続かなかった。目が泳ぎ、口元だけが半端に動いていた。
「熱い料理だった。あなたが驚かせるたび、私はいつか怪我をすると身構えてきた。この数年、ずっと。もう限界」
夫はしばらく黙って、それから床の破片を一緒に拾い始めた。
「……ごめん。もうしない」
いつも笑ってごまかす人が、初めて目を合わせて謝った。その日を境に、背後から忍び寄る足音は消えた。
驚かされない台所が、こんなに落ち着くものだと初めて知った。
笑えないと言えた自分を、少しだけ誇らしく思う。伝えなければ、きっと何も変わらなかった。
※tendが独自に実施したアンケートで集めた、40代・女性読者様の体験談をもとに記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














