「お金の話は、一人で抱え込まないで」母と決めた半年の返済計画→最後の返済後、母が夕飯で出したのは
台所に並んだ三枚の紙
給料日前に実家へ寄った日、母は台所のテーブルを布巾で拭いてから、三枚の紙を並べた。
一枚目は、私が黙って借りていた10万円の返済予定が分かる紙。
二枚目は何も書かれていない白紙。
そして三枚目は、壁のカレンダーから外した、その月から半年分の日付が分かるページだった。
「どうして黙ってたの」
「言えなかった」
生活費が足りなくなったのは、家賃の更新と通院にかかった費用が重なったからだった。
誰にも相談できないまま借りてしまい、返済が始まってからは通帳を見るのも嫌になっていた。
母は責めるようなことは言わなかった。
ただ、話を聞きながら何度か小さく息をついていた。
「一人で返すつもりだったの」
「うん。知られたくなかったから」
しばらく黙っていた母は、白紙を自分の前に引き寄せ、真ん中に一本の線を引いた。
「お金の話は、一人で抱え込まないで」
それから、もう一度ペンを持ち直した。
「一緒に計画を立てよう」
線の左には毎月入るお金、右には家賃や光熱費など出ていくお金を書いた。
私が答えるたび、母が数字を足していく。
最後に、無理なく返せそうな金額を二人で決め、カレンダーの給料日に丸をつけた。
六回目の丸を消した夜
その夜、私は姉に電話をかけた。
事情を最初から話して、最後にこう言った。
「お母さん、そういう話は台所でするよね」
たしかに、進路のことも仕事のことも、母と大事な話をするときはいつも台所だった。
返済しなければならない10万円が消えたわけではない。それでも、あと何回で終わるのかが紙の上で見えるだけで、その日は久しぶりに落ち着いて眠れた。
翌月から、給料日が来るたびに実家へ寄った。
借入先への返済を済ませたあと、母が引き出しから三枚の紙を出してくる。
私は自分で返した額を書き、終わった月の丸に線を引いた。
「毎月、自分で書きなさい」
母が言うのは、それくらいだった。
三か月目には残りが半分ほどになり、五か月目には、あと一回で終わるところまで来た。
数字が小さくなるにつれて、最初は見るのも怖かった返済予定の紙を、自分から開けるようになっていた。
半年目の給料日。最後の返済を済ませて実家へ行き、私はカレンダーに残っていた最後の丸を線で消した。
母は三枚を重ねて折り、引き出しの奥へしまった。
「終わったね」と言うのかと思ったが、何も言わない。そのまま立ち上がって、夕飯の支度を始めた。
その夜の食卓には、いつもより一品多く小鉢が並んでいた。帰ってきた父が席につき、料理を見て言った。
「今日はやけに品数が多いな」
母はそれにも答えず、湯気の立つ煮物を父の前へ置いた。
私にも同じ器が置かれていた。
返し終えたことについて、母は最後までひと言も言わなかった。けれど、その日の食卓を見れば、私には十分だった。
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた40代女性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














