「トイレで30分も寝てたんですか?」深夜のコンビニで寝る客。だが、相談した店長がぶつけた正論とは
午前三時、お手洗いの前で困っていた客
三十代のとき、深夜のコンビニで働いていた。その店には、夜になるとよく来る常連の男性がいた。
缶コーヒーを一本買い、雑誌を読んで朝近くまで過ごしていく人だった。
買い物はしていたし、以前はほかのお客さんに迷惑をかけることもなかったので、私たちも強く声をかけることはなかった。
ただ、その週に入ってから様子が変わった。
3日続けて、雑誌の棚の近くで座り込んだまま眠ってしまったのだ。
「お客様、すみません。ここで寝るのはちょっと…」
声をかけると、男性は眠そうに目を開けた。
「ああ、ごめん、ごめん。起きてるよ」
そう言って立ち上がるものの、しばらくするとまた壁にもたれて目を閉じている。
私もレジや品出しがあるため、ずっと見ているわけにはいかなかった。
その夜、午前三時を過ぎたころだった。
若い男性のお客さんが、お手洗いの前から困った顔でレジへ戻ってきた。
「あの、すみません。トイレって一つだけですよね?」
「はい。どうされました?」
「さっきからずっと使用中で…。もう30分近いと思うんですけど」
「30分ですか?すみません、ちょっと確認してきます」
慌てて扉の前へ行くと、表示はまだ赤いままだった。
軽くノックする。
「お客様、店員です。大丈夫ですか?」
返事がない。
もう一度、少し強めにノックした。
「大丈夫ですか?お返事いただけますか?」
すると扉の向こうから聞こえてきたのは、うめき声ではなく、規則正しいいびきだった。
「お客様、申し訳ないんですが、起きてください」
少しして、中から物音がした。
「…ああ。寝ちゃったか」
出てきたのは、あの常連の男性だった。
「すみません。ほかのお客様がお待ちなので、トイレで眠るのは困ります」
私がそう伝えると、男性は気まずそうに頭をかいた。
「悪かったよ。ちょっと座ったら眠くなっちゃってさ」
そして軽く手を上げると、また雑誌の棚のほうへ歩いていった。
待っていたお客さんは男性の背中を一度見てから、何も言わずにお手洗いへ入った。
「もう、こっちも見て見ぬふりはできないな」
始発が動き始めるころ、私は店長に電話した。
ここ数日、男性が店内で眠っていたこと。それまで何度か声をかけていたこと。
そして今夜は、お手洗いに入ったまま眠り、ほかのお客さんを30分近く待たせてしまったことを伝えた。
「そんなに長く入ってたのか」
「はい。お客さんに言われるまで、私も気づけなくて…」
「いや、それを一人でずっと見てろっていうのも無理だよ」
店長は少し黙った。
「でも、ずっと続いてるんだよな?」
「続いてます。声をかければ起きてくれるんですけど、また寝ちゃうんです」
電話の向こうで、店長が小さく息を吐いた。
「わかった。今日、店に行くよ。もう見て見ぬふりはできないな。本部にも相談してみる」
昼前、店長は店へ来た。
これまでの様子をもう一度確認したあと、本部へ電話を入れていた。
その日の夕方、店長が事務所から持って出てきたのは一枚の紙だった。
深夜の長時間滞在や、店内で眠る行為は控えてほしいという内容が書かれていた。
「今まで曖昧にしてたこっちにも責任はあるから。これからはちゃんと伝えよう」
店長はそう言った。
その晩、男性がいつものように店へ入ってくると、店長がレジから声をかけた。
「すみません、少しお話いいですか」
男性は不思議そうな顔をした。
「俺?何かした?」
「ここ何日か、店の中で寝てますよね。昨日はトイレでも眠ってしまって、ほかのお客様を長く待たせてしまったんです」
男性は一瞬黙った。
「ああ…昨日のことか」
「これからは店内で寝たり、長い時間過ごしたりするのはやめていただきたいんです」
責めるような口調ではなかったが、店長の声ははっきりしていた。
男性はしばらく張り紙を見ていた。
「…そっか。迷惑かけてたんだな」
「すみません。でも、お店としてはそうさせてください」
「わかったよ」
男性はそれ以上言い返さず、いつもの缶コーヒーを一本だけ買った。
「じゃあ、今日は帰るわ」
そう言って店を出ていった。
翌朝、私が勤務を終えるころには、入口の自動ドアの内側に同じ内容の張り紙が貼られていた。
何度も来ていた人だからこそ、どこまで声をかけるべきなのか迷っていたのだと思う。それでも、ほかのお客さんにまで影響が出たことで、店として線を引く必要が出てきた。
あの張り紙を見るたび、もっと早く相談してもよかったのかもしれないと、私はしばらく考えていた。
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた30代男性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














