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2026.09.09(Wed)

「ずいぶん簡単なんだな」故人を送る席で不満を漏らす親戚。だが、祖父の姉の言葉で空気が一変

「ずいぶん簡単なんだな」故人を送る席で不満を漏らす親戚。だが、祖父の姉の言葉で空気が一変

乾杯代わりのお茶が回ったあとに、その声は上がった

祖父の通夜と葬儀が終わり、精進落としの席が始まったのは三年前の秋だった。

座敷には親族と、祖父と親しかった知人が集まっていた。

膳が配られても、みんなまだ黒い服のままだった。

祖父の口ぐせや、庭に植えていた木のことを誰かがぽつりと話し、それに別の誰かがうなずく。

そんな静かな時間だった。

喪主の父も、来てくれた人に一人ずつ頭を下げてから、ようやく自分の席に戻った。

お茶が回って少ししたころ、遠縁にあたる六十代の男性が膳を見ながら口を開いた。

「…ずいぶん、あっさりした膳だな」

周りの人が一瞬だけ顔を上げた。

近くに座っていた父の弟が、少し困ったように答えた。

「父が生前に、あまり大げさにしなくていいって言ってたんです」

男性は「そうなのか」とうなずいたものの、膳を見たまま続けた。

「いや、悪いって言ってるんじゃないよ。ただ、もう少し何かあってもよかったんじゃないかと思ってさ」

父の弟はそれ以上返さず、箸を持ち直した。

それで終わるのかと思った。

けれど十分ほどすると、男性は今度は返礼品の話を始めた。

「こういうのも今はずいぶん簡単なんだな。昔はもうちょっと、いろいろあっただろ」

隣にいた親戚が、「まあ、本人がそういうのを嫌がってたから」とやんわり返した。

それでも男性は納得しない様子だった。

「だから文句じゃないって。たださ、せっかく人が集まったんだから、もう少し何かあってもよかったんじゃないかって話だよ」

三度目に、いちばん年上の人が箸を置いた

さっきまで祖父の昔話をしていた人たちも、少しずつ口数が減っていた。

父は聞こえていないふりをするように湯呑みを持っていたが、私はその横顔が固くなっているのに気づいた。

そして三度目だった。

男性が膳の端を見ながら、また同じことを口にした。

「まあでも、俺だったらもう少し」

そのとき、座敷の奥で箸を置く音がした。

祖父の姉にあたる親戚の女性だった。その日集まった中では、いちばん年上だった。

「もう、そのくらいにしませんか」

男性が顔を上げた。

「いや、別に俺は責めてるわけじゃ…」

「分かっていますよ」

女性は声を荒らげなかった。

「でも今日は、この人を送るためにみんな集まったんでしょう。料理がどうとか、お返しがどうとか、今ここで何度も言わなくてもいいじゃないですか」

男性は一瞬、言葉を探すように口を開いた。

「俺だって、悪く言うつもりじゃないよ」

「だったら、なおさらです」

女性はそれだけ言うと、もう一度箸を取った。

座敷に短い沈黙が落ちた。

男性は「…まあ、そうだな」と小さくつぶやき、湯呑みに口をつけた。

そのあと、誰かが祖父の若いころの話を始めた。父もようやく少し笑って、「そんなこともあったな」と答えた。

お開きの時間になると、父は立ち上がり、集まった人たちへ頭を下げた。

「今日は、本当にありがとうございました。父も、みなさんに来てもらえて喜んでいると思います」

声は少しかすれていた。

帰り際、あの男性も父の前で足を止めた。

「…今日は、ご苦労だったな」

父は「ありがとうございます」とだけ返した。

男性はそれ以上何も言わず、靴を履いて座敷を出ていった。


※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた30代女性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています

※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。

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