「駅の方から来たん?」人の流れのなかで泣きそうだった兄妹。だが、思い切って声をかけた結果
人の流れのなかで、そこだけが止まっていた
旅先で夕方に海を見に行こうと言い出したのは、一緒にいた友人でした。
海辺の遊歩道は観光客で混み合っていて、私たちは正面から来る人をよけながら歩いていました。
そんなとき、少し先で小学生くらいの兄妹が立ち尽くしているのが目に入りました。
妹は今にも泣き出しそうな顔をしていて、兄はその手を握ったまま何度も周囲を見回しています。近くに保護者らしい大人の姿はありませんでした。
「迷子かな」
友人が小さな声で言いました。
私もそう思いましたが、すぐには動けませんでした。
知らない大人が突然話しかけたら、かえって怖がらせるかもしれないと思ったからです。
それでも、次々と人が横を通り過ぎるなか、二人だけがその場から動けずにいました。私は友人と顔を見合わせてから、ゆっくり近づきました。
少し距離を空けたまま、まず兄に声をかけます。
「駅の方から来たん?」
兄は私の顔を見てから、小さくうなずきました。
「うん。そっちから歩いてきた」
「一緒に来た大人の人は、この近くにいる?」
今度は首を横に振ります。
「ホテルに戻りたいけど、どこか分からなくなった」
妹は兄の腕にしがみついたまま、黙っていました。
自分たちで探さず、案内所へ向かった
この人混みのなかを私たちだけで保護者を探すのは難しそうでした。遊歩道の少し先に案内所があったことを思い出し、二人に聞きました。
「あそこに人がいるから、一緒に行ってみようか」
兄がうなずいたので、友人と二人で兄妹を案内所まで連れていきました。
スタッフに事情を説明すると、兄妹に名前や一緒に来た家族のことを確認したあと、すぐに別のスタッフへ連絡を取ってくれました。
少しして、スタッフが私たちのところへ戻ってきます。
「ご家族からも、お子さんを探していると連絡が入っています。こちらに来てもらいますね」
その言葉を聞いた瞬間、兄の表情が少しやわらぎました。
スタッフは二人を椅子に座らせ、「ここで待っていれば大丈夫だからね」と穏やかに声をかけていました。
しばらくすると、人混みの向こうから両親らしい男女が急いでやってきました。
妹は姿を見つけるなり母親のところへ駆けていき、兄もその後を追います。父親はスタッフに何度も頭を下げていました。
私たちはもう大丈夫そうだと思い、その場を離れることにしました。
すると最後に、兄がこちらを振り返りました。そして何も言わず、小さく頭を下げたのです。
私たちがしたのは、声をかけてスタッフのいる場所まで一緒に歩いただけです。それでも、あのとき通り過ぎなくてよかったと、今でも兄のお辞儀を思い出すことがあります。
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた30代男性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














