tend Editorial Team

2026.08.19(Wed)

「卵はまだ入るね」ホテルの朝食会場。だが、子供のポケットの中身に思わず目を疑ってしまった

「卵はまだ入るね」ホテルの朝食会場。だが、子供のポケットの中身に思わず目を疑ってしまった

目が届かない場所は、たしかにあった

旅先で泊まった大きなホテルの朝食は、披露宴会場のように広い部屋でのバイキングだった。

料理は中央にまとめて並び、皿を補充するスタッフも、たいていはその周りに立っている。

私たちが案内されたのは、そこから遠く離れた壁ぎわの席だった。

「せっかくなら、もう少し近い席がよかったね」

連れとそんな話をしながら座って、しばらくして気づいた。会場が広いぶん、中央から奥までは視線が通らない。

この一角は、部屋の中でいちばんスタッフの目が届きにくい場所なのだ。

隣のテーブルには、両親と小学生の子ども3人の5人家族。母親が足元のかばんから、ふた付きの大きな容器を取り出すのが見えた。

朝食の席にはおよそ似合わない、家庭の台所にありそうな大きさだった。その光景を、私は今でも言葉のまま覚えている。

「卵はまだ入るね」

母親の声は明るく、悪びれた様子はまるでなかった。子どもたちのズボンのポケットは、すでに丸いもので膨らんでいる。ゆで卵が3個ずつ。

子どもたちは、親に言われたとおりにしているだけで、手渡されたものを素直にしまっているだけの顔をしていた。

静かに近づいてきた、ひとりのスタッフ

「ねえ、あれ」

連れに小声で伝えたものの、私にできることは何もなかった。他人の家族に口を出す立場ではないし、注意したところで角が立つ。

目をそらしても、また視界の端に容器が入ってくる。気まずさだけが、皿の上のパンと一緒に冷えていった。

そのとき、空いた皿を下げるスタッフが通りかかり、隣のテーブルの脇でそっと足を止めた。

周りに聞こえないほどの声で、両親のほうへ静かに話しかける。

「恐れ入ります。こちらのお料理は、館内でお召し上がりいただくお願いをしております」

「少し持って出るだけです」

父親がそう返しても、スタッフは表情を変えなかった。

「お作りしたものはいくらでもお持ちいたします。どうぞこちらで、ゆっくり召し上がってください」

母親がふたを閉じ、容器をかばんにしまった。

子どもたちのポケットからも、母親の手で卵が皿へ戻されていく。

一度も声が大きくならないまま、テーブルの上が元どおりになっていった。スタッフは最後に、子どもたちのほうへ笑いかけた。

「おかわり、お持ちしますね」

子どもたちがうれしそうにうなずくのを見て、私はようやく肩の力が抜けた。目を伏せることしかできなかった自分の気まずさも、その一言で静かにほどけていった。

※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた30代女性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています

※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。

RANKING

OTHER ARTICLES

NEW 2026.08.19(Wed)

「財布まで、同じものになっていた」距離を取ろうとするほど笑顔で近づいてきた同僚に、背筋が凍った日
tend Editorial Team

NEW 2026.08.19(Wed)

「割り込みではなく、待ち合わせです」先に並んでいた人と合流しようとしたグループ。だが、係員の一言で状況が一変
tend Editorial Team

NEW 2026.08.19(Wed)

「30分たっても、話は終わらない」クレームではない電話を切れずにいた私。帰り際に感じた本音とは
tend Editorial Team

RECOMMEND

2026.05.10(Sun)

ヤバい人への警告は自分も危うい?悪口を封印して大切な友人を守る画期的な自衛策とネットで渦巻く驚愕の実体験
tend Editorial Team

2025.09.02(Tue)

石丸伸二氏の退任受け…「再生の道」仲れいこ氏、国政への道を断ち『札幌市議選』目指すことを表明
tend Editorial Team

2025.09.29(Mon)

「SHISHAMOは活動を終了します」人気バンド『SHISHAMO』2026年6月の地元ライブで活動終了を発表。ファンか...
tend Editorial Team