「わざわざ来なくていい」入院した大叔母。長年そばで支えてきた父と、遠方から駆けつけた娘が病院で顔を合わせた瞬間
隣に住む大叔母を、父は長く気にかけていた
私の実家の隣には、祖母の妹にあたる大叔母が一人で暮らしていました。
夫を早くに亡くし、娘も就職を機に遠方へ移ってからは、すぐ近くに住む父が何かと様子を見るようになっていました。
最初は、重い物を運んだり、電球を替えたりする程度だったそうです。
けれど大叔母が年齢を重ねるにつれて、買い物を頼まれたり、庭の片づけを手伝ったりすることも増えていきました。
「今日は牛乳だけ買ってきてくれってさ」
そんなふうに言いながら出かける父の姿を、私は子どものころから何度も見てきました。
大叔母には一人娘がいました。
私も何度か会ったことがあります。帰省するたびにお土産を持ってきてくれる、穏やかな人でした。
ただ、仕事や家庭があるため、地元へ戻れるのは年に数回ほどだったようです。
大叔母が90歳を過ぎて入院してからは、父が必要な物を届けたり、様子を確認したりする機会がさらに増えました。
父は娘さんにも何度か連絡をしていたそうです。
「電話では元気そうだから、もう少し落ち着いたら帰るって言ってたよ」
父はそう話していました。
大叔母自身も娘に心配をかけたくなかったのか、電話では「大丈夫」「わざわざ来なくていい」と話すことが多かったそうです。
病院で初めて分かった、二人が見ていたものの違い
ある朝、病院から大叔母の容体が急変したと連絡が入りました。
父はすぐに支度をし、私も車で一緒に病院へ向かいました。
病棟の前まで行くと、そこには娘さんの姿がありました。連絡を受け、遠方から急いで来たようでした。
「ずっと任せきりになって、ごめんなさい」
娘さんが父に頭を下げました。
父は少し驚いたような顔をしてから、首を横に振りました。
「隣だから見てただけだよ。それより、間に合ってよかった」
そこへ看護師さんが来ました。
「面会は、一度にお一人ずつでお願いします」
父はすぐに娘さんへ言いました。
「先に行ってあげて」
娘さんはもう一度頭を下げ、病室へ入っていきました。
私と父は廊下の椅子に座って待ちました。
父は膝の上で手を組んだまま、ほとんど話しませんでした。
しばらくして病室から出てきた娘さんは、目を赤くしていました。
「電話では、ずっと普通に話してたんです。まだ大丈夫だと思っていました」
父は少し間を置いて答えました。
「本人も、心配させたくなかったんだろうな」
その言葉を聞いて、私はようやく気づきました。
父は近くにいたからこそ、大叔母が少しずつ弱っていく姿を見ていました。
一方、遠くに暮らす娘さんが知る母親の姿は、電話越しの元気な声や、帰省したときの姿が中心だったのです。
娘さんが大叔母を気にかけていなかったわけではありません。
ただ、同じ人を思っていても、距離によって見えているものは大きく違っていたのでしょう。
そのあと、父も病室へ入りました。
扉の前で待つ娘さんとすれ違うとき、二人は何も言いませんでした。ただ、小さく頭を下げ合っていました。
長いあいだ近くで支えてきた人と、遠くから母を思っていた人。その二人が同じ病室の前に立つ姿を見て、家族を思う気持ちは、近くにいるかどうかだけでは測れないのだと感じた出来事でした。
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた30代女性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














