「知らないのはどっちだよ」コールセンターで1時間近く続く電話。だが、返し方を変えた私が気づいたこと
受話器を置いたあとに残る静けさ
コールセンターに勤めていたころ、よく電話をかけてこられる方がいました。
受話器の向こうから最初のひと言が聞こえると、ああ、あの方だ、とすぐに分かります。
私はメモ帳を開いて日付を書き、隣の席の人もちらりとこちらを見る。それがいつもの流れになっていました。
本来の用件は、それほど複雑ではありません。手続きについて確認し、必要なことを説明すれば、五分ほどで終わる内容でした。
ただ、その方の電話はそこからが長かったのです。
「ところで、これはそちらではどうなってるんですか」
聞かれたのは、うちとは関係のない会社についてのことでした。
「申し訳ありません。そちらについては弊社では分かりかねます」
そう答えると、相手はそのまま話を続けます。
「そうですか。前に聞いた話では、こうだったんですけどね」
そこから別の会社の仕組みの話になり、昔の経験談に移り、また最初の話へ戻ってきます。
私は内容に誤解があればその都度説明し、答えられない質問には理由を添えていました。
すると相手もさらに説明を重ね、同じ話題を何度か行き来することがありました。
気づけば、一時間近く受話器を持っている日もあります。
「知らないのはどっちだよ」
もちろん、そんなことは口には出せません。
ようやく電話が終わると、それまで耳元で声を聞き続けていたせいか、周囲が急に静かになったように感じました。その静けさの中で少し気持ちを切り替え、また次の電話を取っていました。
途中で説明するのをやめてみた
ある日、いつものように本来の用件から話が広がり始めたとき、私は返し方を少し変えてみました。
これまでは気になる部分があるたびに説明していましたが、その日はすぐに言葉を挟まず、まず相手の話が一区切りするまで聞いてみたのです。
「そうなんですね」
「そうなんですよ。前にも似たことがあってね」
私は短く相づちを打ちながら聞き、話が途切れたところで、本来の手続きについて必要な確認だけをしました。
すると、その日は一度話した内容へ何度も戻ることがなく、いつもよりずっと早く電話が終わりました。
受話器を置くと、隣の席の人がこちらを見ました。
「今日は短かったですね」
私も時計を見て、少し驚きました。
もちろん、一度だけなら偶然だったのかもしれません。それでも次からも、まず話を一区切りまで聞いてから必要な案内をするようにすると、一時間近く続く電話は少しずつ減っていきました。
今になって思えば、あの方は手続きの確認だけでなく、自分の知っていることや経験を誰かに聞いてほしかったのかもしれません。
その後も、電話がかかってくる頻度自体は変わりませんでした。
変わったのは、受話器を持っている時間だけです。
電話を切ったあとに感じていた、あの妙に長い静けさも、いつの間にか少しだけ短くなっていました。
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた30代女性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














