「あいつは最後まで、何も言わなかったな」羽振りのよかった叔父の死後、父に届いた借金の請求書。あの笑顔を思い出すと怖くなった
何年も会っていなかった叔父の知らせ
父の弟にあたる叔父は、昔から羽振りのいい人でした。
親戚が集まると、いつも上座に座って大きな声で笑い、まるで大物のようにふるまっていました。私も、そんな叔父の姿をよく覚えています。
ところが、ここ何年かは親戚の誰も叔父に会っていませんでした。父も、弟がどこで何をしているのか、詳しくは知らないようでした。
そんなある日、叔父がもう長くないと電話で知らされました。
それから数か月後、叔父は亡くなりました。叔父には子どもがおらず、妻がいました。
葬儀を内々で済ませた夜、私は実家の居間で、年老いた父と向かい合って座っていました。
座卓には、香典の帳面が開いたままになっています。
「これで、ひと区切りだね」
私がそう言うと、父は小さくうなずきました。
「ああ……。あいつ、あんなに派手なのが好きだったのになあ」
父は帳面をそっと閉じました。その顔は寂しそうでしたが、どこかほっとしているようにも見えました。
けれど、これですべてが終わったわけではなかったのです。
父のもとに届いた、見知らぬ会社からの請求書
それから数日後の昼、実家の居間に入ると、父が座卓の前で一枚の書類を見つめていました。
横には、見覚えのない会社名が印刷された封筒が置いてあります。
「お父さん、どうしたの?」
声をかけると、父はゆっくり顔を上げました。
「……あいつ、借金を残していったらしい」
「えっ? 借金って、叔父さんの?」
驚いて書類をのぞき込むと、そこには叔父が借りたお金について、父に返済を求める内容が書かれていました。
「ちょっと待って。どうしてお父さんに請求が来るの?」
「それが、俺にもよく分からなくてな……」
父は困り果てた様子で、書類に目を落としました。
わが家は家を建てたばかりで、余分なお金などありません。
そもそも、叔父の借金を父が払わなければならないのでしょうか。
「これ、本当に払わないといけないのかな……」
父の不安そうな声を聞き、私まで怖くなりました。
いつも気前よくふるまっていた叔父に、借金があったなんて。しかも亡くなったあとに、こんな知らせが届くとは思いもしませんでした。
ただ、何も分からないままお金を払うわけにはいきません。
私は父を連れて、すぐに弁護士さんへ相談に行くことにしました。
弁護士の言葉に安心した父。それでも残った恐怖
弁護士さんには、これまでの事情を説明し、届いた書類も見てもらいました。
話を聞いた弁護士さんは、落ち着いた声で言いました。
「相続を放棄すれば、払わなくて済みます」
「えっ、本当ですか? 父は払わなくてもいいんですか?」
「はい。家庭裁判所で、きちんと相続放棄の手続きをする必要があります」
その言葉を聞いた瞬間、張りつめていた気持ちが少しだけ緩みました。
隣を見ると、父も深くうなずいています。
「そうですか……。よかった」
父の肩から、ふっと力が抜けたように見えました。
その後、父の相続放棄の手続きは無事に終わりました。叔父の借金を相続によって負担せずに済み、それ以降、父のもとに新たな請求が届くこともありませんでした。
手続きを終えた日、父は香典の帳面を引き出しにしまいながら、ぽつりとつぶやきました。
「あいつは最後まで、何も言わなかったな」
その言葉を聞いたとき、私の頭に浮かんだのは、昔の叔父の姿でした。
親戚の前で豪快に笑い、いつも余裕たっぷりだった叔父。
あの羽振りのよさは、いったい何に支えられていたのでしょうか。
叔父がいつから借金を抱えていたのか、私には分かりません。
もしかすると、私たちの前で笑っていたあのころにも、誰にも言えない事情を抱えていたのかもしれません。
借金の問題は解決しました。それでも、何も知らずに見ていたあの笑顔を思い出すと、今でも背筋が冷たくなるのです。
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた60代以上女性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














