「言ってませんよ。そんな変更、こっちは聞いてません」先方と始まってしまった水掛け論。決着後に残った胸のモヤモヤ
納品が終わってから始まった、長い水掛け論
30代女性、法人営業を続けて何年目になるだろう。
担当している顧客企業は規模もさまざまで、案件ごとに金額が大きく動く。
だからこそ、私はメールと見積書をしつこいくらいに残す癖がついている。
その日の案件も、途中で先方の希望に合わせて仕様を入れ替えていた。
電話で合意したあと文面で送り直し、訪問のたびに見積書を一行ずつ説明した。
「ここ、ご希望に合わせてこの仕様に変えております。金額はこちらでお願いいたします」
応接室の課長は深く頷いて、合意の言葉も口にしてくれた。
同席していた若いアシスタントも同じように頷いていた。だから、私は安心して納品の準備に入った。
異変は、納品が終わって請求書を出した翌日に起きた。担当課長から電話が入り、開口一番こう言われた。
「言ってませんよ。そんな変更、こっちは聞いてません」
受話器の向こうの声は、いつも会議室で聞いていた穏やかな声と同じ人のものだった。
勝った気がしないまま、人間不信に静かに傾いた
私は深呼吸して、変更後のメールの返信、見積書の控え、訪問日の議事録を順番に読み上げた。
それでも返ってきたのは、同じ一文だった。
「言ってませんよ」
言葉が短いほど、こちらの選択肢は減っていく。社内のマネージャーに事情を共有し、お互いの会社の上長同士の話し合いが設定された。
準備の間、私は何度も自分のメール送信履歴を見返した。日付、時間、本文、添付ファイル。漏れはないはずだった。
(こんなに残しても、最後に効くのはこの一言なのか)
話し合いの場で、こちらの証拠が並ぶと、相手は途中から黙り込んだ。
最終的に追加分の費用は先方が持つ形で決着して、案件そのものは静かに閉じられた。書面上は、こちらの主張が通ったことになる。
それでも、終わったあとに残ったのは、勝った高揚感ではなかった。
会議室のあの頷きと、電話越しの「言ってませんよ」が、同じ顔の中に同居している事実のほうが頭から離れない。
その夜、自宅の机で次の月の提案資料を作っていたとき、ふと指が止まった。新しい客先のメールに、過剰なほど丁寧な確認文を添えている自分に気づいたからだ。
証拠を残すクセが、人を疑うクセに変わりかけている。
営業を続けていればよくある話、と先輩は笑って言ってくれた。それは分かっている。それでも、人間不信に傾きそうな夜が増えていくたびに、この仕事のどこにモヤモヤを置いていけばいいのか、答えが出ないままでいる。
※tendが独自に実施したアンケートで集めた、30代・女性読者様の体験談をもとに記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














