「これは10円高い」付き合った時は優しかった彼。だが、徐々に見えてきた彼の金銭感覚についていけなくなった
値札に目を落とす横顔が増えてきた頃
外食の席で、彼がメニューを開いたまま動かない時間が長くなっていた。
最初の数ヶ月は迷わず私の好みを優先してくれていたのに、最近は別のものを指差してくる。
「こっちの方が500円安いよね」
知人の紹介で出会った年上の彼は、付き合い始めの頃はとても丁寧な人だった。
駅まで毎回迎えに来てくれて、付き合い記念日には花束を抱えて現れた。誕生日プレゼントも前々から用意してくれていた。
穏やかな時間に、心からほっとしていたのです。
けれど季節が一周する頃、その丁寧さに別の質感が混ざり始めた。スーパーの棚の前で、商品の値段を声に出して比べるようになったのです。
「これは10円高い」
「同じ容量なのに無駄」
独り言のような言葉が増えていきました。
買い物の途中で、商品を手に取っては戻すのを何度も繰り返すようになり、レジに並ぶ前に必ず合計金額を頭の中で計算しているらしかった。
最初のうちは、堅実で家計に強い人なんだ、と前向きに捉えようとしていた。けれどデートの会話の半分以上が値段の話になってきた頃、私はだんだん相槌を打つのもしんどくなっていきました。
差し出された一枚の紙に、絶句した夜
違和感の正体がわかったのは、ある夜の食卓だった。彼はかばんから几帳面に折りたたまれた紙を取り出して、テーブルに広げてみせた。
「今までかかった費用、全部書き出してきたから」
日付ごとに項目と金額が並んでいる。迎えに来てくれた日のガソリン代、記念日の花束、誕生日のプレゼント、外食の支払い。すべて細かく記録されていて、最後に総額まで添えられていた。
私はとっさに言葉が出なかったのでした。受けてきた気遣いの一つひとつが、目の前で値段に置き換わっていく。
胸の奥が冷たくなる感覚を、今でも覚えている。
(この人は、私に何を確認させたかったんだろう)
感謝してほしいのか、これからは折半にしたいのか、それとも返してほしいのか。意図を尋ねる気力すら湧かなかった。
受け取ってきたものの一つひとつが、紙の上で他人行儀な数字に置き換わっていく感覚だけが残った。
その夜は当たり障りのない返事だけをして、早めに切り上げた。家に帰ってから、自分の中で何かがすっかり萎んでしまったのに気がついた。
翌日から私は連絡を返すのをやめた。彼からの着信も次第に減っていき、関係はそのまま途切れた。優しかった人なのに、最後に残ったのは値段の並んだ紙の感触だけ。
※tendが独自に実施したアンケートで集めた、40代・女性読者様の体験談をもとに記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














