「3割引じゃない、半額にしろ今すぐ!」レジで揉めた客。だが、店長の説明を聞いて青ざめたワケ
動かなくなった夕方のレジ
夕方の買い物は、退職してからの日課です。その日も惣菜をいくつか手に取ってレジに並ぶと、私の前で列が止まったまま動きません。
会計中の同年輩の男性が、パックを掲げて店員に詰め寄っていたのです。
「3割引じゃない、半額にしろ今すぐ!」
レジにいたのは若い女性店員です。伝票を見ながら、落ち着いた声で答えます。
「こちらは元の価格から3割引のシールでございますので、このお値段になります」
「いつもこの時間は半額になるはずだ。貼り忘れだろう」
「申し訳ございません。本日は3割引でのご案内です」
「客を騙す気か。店長を呼べ」
男性はレジ台を叩きました。何度も、同じ場所を。そのたびに小銭皿が跳ねます。
気がつけば10分が過ぎていました。後ろには私を含めて5人が並び、みな困った顔で足元を見ています。私も口を開きかけて、やめました。
怒鳴り声を止めた、値引きの記録
やがて、店長らしい男性が奥から出てきました。走る様子はなく、ただ足早です。店員の横に立ち、客に一礼してから口を開きました。
「値引きのシールは、その日の残り数と時間で率が変わります。半額になる時刻の決まりはございません」
「決まりはあるだろう。前は半額だったんだ」
店長は言い返しません。持っていた紙を、レジ台に静かに置いただけです。
「こちらが本日の値引き記録です。何時に何を、何割で下げたか残っております」
男性は紙に目を落とし、指でなぞるように上から下まで見て、それきり動きが止まりました。
「今日はこの品を、3割引でお出ししました。貼り忘れではございません」
後ろの列で、誰かが小さくうなずきました。ひとりうなずくと、その隣も。声を上げた人はいませんが、場の空気がどちらに傾いたかははっきり分かります。
男性の顔から、みるみる血の気が引いていきます。
「……そんな仕組みだとは」
「ご説明が行き届かず、申し訳ございません」
店長は、最後まで勝ち誇る顔をしません。男性はそれ以上何も言わず、財布から札を出します。台を叩いていた手が、今度は釣り銭を受け取るために差し出されました。
袋を抱えた男性は、こちらを一度も見ずに出ていきました。10分間レジを止めた人とは思えないほど、小さな背中でした。
ドアが閉まると、店長は店員に向き直りました。
「言うべきことを最後まで変えなかったね。あれが正しい対応だよ」
「ご迷惑をおかけしました」
「迷惑なんかじゃない。少し奥で休んできなさい」
私の順番が来たときには、店員はもう次の会計を始めています。声はまだかすれていましたが、背筋はまっすぐでした。
※tendが独自に実施したアンケートで集めた、60代以上・男性読者様の体験談をもとに記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














