「欲しい人が持っていけばいいでしょ」曽祖父の遺品を次々カバンに入れた親族。20分後、母が広げた1枚の紙とは
三時ちょうどに、祖母が言った
曽祖父の葬式の日、仏間の柱には四角い時計が掛かっていました。
小学生だった私は、大人たちの話についていけず、何度もその時計を見ていました。
遺言書に書かれていた物の確認が終わったあと、押し入れに残っていた箱の扱いで話が止まりました。
中には指輪や時計など、細かな品物が入っていました。
葬儀の前、母は祖母に頼まれて家の片付けを手伝っていました。
そのとき、この箱も一度開けて、中に何が入っているのか確認したそうです。
「これはどうする?」
祖父の兄弟の一人が尋ねると、畳に座っていた大人たちの視線が祖母に集まりました。
「欲しい人が持っていけばいいでしょ」
時計はちょうど三時を指していました。
祖母としては、あとで相談しながら形見分けをすればいい、くらいのつもりだったのだと思います。
ところが、それを聞いた祖父の兄弟の一人の奥さんが、箱を自分の前へ引き寄せました。
「じゃあ、これもらっていいのよね」
そう言って指輪を一つ手に取り、続けて別の品物も自分のカバンへ入れ始めました。
周りの大人たちは顔を見合わせました。奥さんの夫も、すぐには何も言いませんでした。
二十分後、母が紙を広げた
何点かがカバンに入ったころ、母が立ち上がりました。
母は鞄から折りたたんだ紙を出し、箱のそばに広げました。
「この箱、片付けのときに一度確認したので、中身を書いてあります」
紙には、指輪や時計などの品名と数が並んでいました。
「いったん全部戻して、何があるか確認してから決めませんか」
祖父の兄弟の一人が「それがいい」と言うと、何人かも頷きました。
そのときの奥さんの顔を、私は今でもよく覚えています。
紙と自分のカバンを交互に見て、さっきまで品物を選んでいた手が止まりました。
「だって、お義母さんが持っていっていいって言ったから…」
「うん。でも、誰が何を持つかは確認してからにしましょう」
母は責めるような言い方をしませんでした。
奥さんの夫も「一度戻そう」と言い、カバンに入っていた物は箱へ戻されました。
母が紙を見ながら確認すると、数はすべて合っていました。
そのあと、大人たちは改めて箱を囲み、誰が何を引き継ぐのかを話し合っていました。
帰り道、私は母に、どうしてあの紙を持っていたのか聞きました。
「片付けるときに、分からなくならないように書いただけよ」
母はそう答えました。
私が覚えているのは、指輪の大きさでも、その日の話し合いの内容でもありません。三時二十分、母が紙を広げた瞬間に、黙ってしまったあの人の顔です。
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた30代女性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














