「前の席って決めてたのよ。早くどいてもらえる?」遠足のバスで席を奪うママ。だが、先生の一言で言葉を失った
遠足のバスに乗り込んで
幼稚園の遠足の朝、貸し切りの観光バスに親子で乗り込んだ。座席は自由席。
私は子供と並んで座れる場所を見つけ、ごく普通に腰を下ろした。
出発まではまだ少し時間がある。子供にお菓子を一つ渡し、自分の荷物を膝に抱えていた。
そこへ、通路を歩いてきた一人のママが私たちの席の横で立ち止まった。日頃から何かと張り合ってくる人で、その日もどこか高圧的だった。
「そこ、うちの子が座る予定だったんだけど」
「予定、というのは……」
「前の席って決めてたのよ。早くどいてもらえる?」
自由席で誰がどこに座るかなんて、事前に決まっているはずもない。
そんな取り決めを聞いた覚えもなかった。隣で子供がきょとんと私を見上げている。周囲のママたちも、突然のやり取りに手を止めていた。
触らないでください
戸惑う私に、彼女は当然のように畳みかけてきた。
「うちの子は前じゃないと嫌なの」
そう言うやいなや、私の荷物に手をかけ、座席から押しのけようとしてきた。
「触らないでください」
声を荒げず、ただ毅然と言った。彼女の手が止まる。
「は?譲ってくれてもいいでしょ」
「自由席ですし、先に座っていますので」
「子供がかわいそうだと思わないの」
引く気のない彼女の声は、車内によく響いた。子供を持ち出せば私が折れるとでも踏んでいたのだろう。
近くのママたちは、あっけにとられた顔のまま、誰も口を開かない。気まずい沈黙が広がりかけた、まさにそのときだった。
凍りついた車内
後ろの座席にいた担任の先生が、こちらを振り返って言った。
「席は早い者勝ちですよ」
柔らかい口調だったが、有無を言わせない響きがあった。
彼女の表情が固まった。頬がじわじわと赤く染まっていく。
反論しようと口を開きかけて、けれど言葉が続かない。周りに視線を泳がせても、味方になってくれる人はいなかった。誰もが先生の一言に小さくうなずいているのが、彼女にも分かったはずだ。
「……もういいです」
消え入りそうな声でそう言うと、彼女は荷物を抱えて別の席へと去っていった。さっきまでの勢いはどこにもなかった。
遠足が終わったあと、一人のママがそっと耳打ちしてきた。
「今日のは、さすがにみんな引いてたよ」
その言葉どおり、彼女はその後の集まりで自然と輪の外へ追いやられていった。あれだけ強気だった人が、顔を合わせるたびに目を逸らすようになる。
立場というのは、こうもあっさり入れ替わるのかと思った朝だった。
※tendが独自に実施したアンケートで集めた、40代・女性読者様の体験談をもとに記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














