「香典、包んでおいてね」義両親からかかってきた電話。だが、妻が感じていた違和感の正体とは
家計簿に残る不自然な出費
月末に家計簿を見返していて、私はふと手を止めた。
「香典…また5千円」
ページをさかのぼると、同じ支出が半年で四度も並んでいた。合わせれば、決して小さな額ではない。
そのどれもが、私の知らない人へのものだった。夫の親戚に不幸があるたび、義実家から電話がかかってくる。
「香典、包んでおいてね」
義両親がまず立て替え、あとから夫が振り込む。結婚してから、それが当たり前になっていた。
けれど、私はその相手に一度も会ったことがない。名前すら、聞いた覚えがなかった。
それでも喪服に袖を通し、私はまた、見知らぬ誰かの弔いへ足を運ぶ。数字を眺めていると、そのくり返しが妙に重たく感じられた。
顔も知らない人への香典
「この人、どういう親戚なの?」
一度、夫にそう尋ねたことがある。夫も、はっきりとは答えられなかった。
「父さんの、いとこの……たぶん、そのあたりだと思う」
「そんなに遠い方にまで?」
私が聞き返すと、夫は気まずそうに口ごもった。答えを持っていないのは、夫も同じだったのだ。
顔も知らない。話したこともない。それでも、不幸があるたびに、うちの財布からお金が出ていく。
断りたくても、「親戚付き合いだから」と言われると、飲み込むしかなかった。
けれど家計簿の数字を前にして、私はもう黙っていられなくなった。
「ねえ、これ、いつまで続くの?」
夫は少し考えたあと、静かにうなずいた。
「……そうだな。一度、ちゃんと言おう」
私が告げた一言
次に義実家を訪ねた日。また香典の話が出たところで、私は思いきって口を開いた。
「面識ない親戚に香典は出しません」
義母の顔から、すっと表情が消えた。
「まあ…嫁の立場で、そんなことを」
「会ったことも、お話ししたこともない方です。うちの家計にも、限りがありますから」
震えそうになる声を、私はなんとか抑えた。隣で夫も、「俺も同じ気持ちだよ」と続けてくれた。
「まあ……今まで、黙って出してくれてたのに」
義母の声が、少しうわずった。反論の言葉を探すように口を動かしかけて、けれど、それきり黙り込んでしまう。
夫まで妻の側についたことで、もう引き下がるしかなかったようだ。
やがて義父が、ばつが悪そうに「……無理をさせていたな」と漏らした。二人がそろって目を伏せる番だった。
その日を境に、香典の催促はぴたりと止まった。
顔も知らない誰かのために、うつむいて財布を開く夜は、もう来ない。たった一言、線を引いただけで、こんなに気持ちが晴れるのかと驚いている。
※tendが独自に実施したアンケートで集めた、40代・女性読者様の体験談をもとに記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














