「離婚の話はもういいんじゃない?」場違いな祝辞で凍りついた披露宴の空気。だが、司会の一言が救った瞬間
乾杯までは完璧だった
後輩の披露宴に招かれ、私は円卓の末席で乾杯のグラスを掲げていました。
料理も演出も行き届いていて、さすがは彼女らしい心配りだと感心したものです。
新郎新婦は終始にこやかで、両家の距離もぐっと縮まっているのが伝わってきます。同じテーブルの招待客も、みな柔らかな笑みを浮かべていました。
このまま何ごともなく、幸せな時間が流れていくのだと思っていました。
デザートが運ばれる頃、来賓を代表して新婦の上司が祝辞に立ちました。恰幅のいい男性が、マイクの前で軽く咳払いをします。
終わらない祝辞
はじめのうちは、ごく普通の祝辞でした。
ところが新婦を褒めたのはほんの数十秒で、話はいつの間にか上司自身のことへ移っていったのです。
自分がいかに苦労してきたか。そして、二度の離婚をどう乗り越えてきたか。
マイクを握ったまま、上司はとうとうと語り続けます。
「離婚の話はもういいんじゃない?」
私は心のなかで、そう呟いていました。
腕時計にちらりと目をやると、祝辞が始まってからずいぶんな時間がたっています。
おめでたい席で、離婚の話がこれほど長く続くとは、誰も思っていなかったでしょう。
笑い声はとうに消え、会場はしんと静まりかえっていました。新郎新婦も、凍りついたような笑顔のまま固まっています。参列者は皆、うつむいて視線をさまよわせるばかりでした。
司会が救った空気
誰もがこの重い空気に耐えかねていた、その時でした。祝辞がわずかに途切れた隙を、司会の女性は見逃しませんでした。
「素敵な人生の先輩に見守られて、お二人は本当に幸せ者ですね」
柔らかな声が、張りつめた会場にすっと通ります。上司の長い話を、責めるでもなく、たったひとことで温かくまとめてしまったのです。
続けて司会は、新郎新婦の出会いのエピソードを明るく読み上げました。凍っていた空気が、みるみるうちに解けていきます。会場のあちこちから、待ちかねたような笑みと拍手がこぼれました。
たったひとことで、沈みかけた披露宴をよみがえらせる。その鮮やかな手際に、私は思わず見入ってしまいました。
プロの仕事とは、こういうものかと胸のうちで拍手を送ります。後輩の晴れ舞台は、司会に救われて、最後は温かな余韻のうちに幕を閉じたのです。
※tendが独自に実施したアンケートで集めた、30代・女性読者様の体験談をもとに記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














