「リップも塗ってあげよう、似合うから」義母の最期の数日をそばで過ごした私。送り出す朝に私が口紅を持った理由
夜がいちばん長かった
義母の容体がいつ変わるか分からないと聞いてから、私はできるだけそばにいることにした。夫の母だから、というだけではない。
嫁いだ頃から、義母はいつも私の話を先に聞いてくれる人だった。
夫から「少し代わろうか」と言われても、私は「大丈夫」と答えた。
夜になると、私は義母の手をさすりながら話しかけた。
「お義母さん、今日はいい天気だったよ」
返事はなくても、黙っているより、そのほうが落ち着いた。
義母の手には細かな傷や硬くなったところがあった。料理や庭仕事をよくしていた人だった。その手にクリームを塗るのが、数日のあいだの私の日課になった。
「お義母さん、手、あったかいね」
窓の外が明るくなるたび、また朝を迎えられたことに少しだけほっとした。
けれど数日目、疲れが限界にきていた私は、付き添っていた場所で少しだけ目を閉じた。そのまま眠ってしまい、目を覚ましたときには夕方になっていた。
義母は、すでに静かに息を引き取っていた。
最後の瞬間には間に合わなかった。それでも、後悔ばかりではなかった。何日もそばにいて、伝えたかったことは何度も話していたからだ。
送り出す朝に
その後、義母は自宅へ戻ってきた。
送り出す朝、私は化粧道具の入ったポーチを持って、義母の枕元に座った。
義母は昔から、近所へ出かけるだけでも口紅を忘れない人だった。
頬にほんの少し色をのせてから、隣にいた夫に声をかけた。
「リップも塗ってあげよう、似合うから」
夫は黙ってうなずいた。
薄く色をのせると、いつも玄関で「いってらっしゃい」と見送ってくれていた頃の義母の顔を思い出した。
「母さん、鏡を見たら喜ぶかな」
夫がそう言って、少しだけ笑った。
足の爪にも色をのせ、最後にもう一度、義母の手へクリームを塗った。
「お義母さん、いってらっしゃい」
夫と二人で、そのあともしばらく義母に話しかけていた。
最後の瞬間には立ち会えなかった。それでも、最期の日々を義母のそばで過ごせたことは、今も私の中に静かに残っている。
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた50代女性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














