「急に降ってきたから、勝手に入れちゃった」距離感が近かったお隣さん。近すぎる距離に感じている違和感
何かと気にかけてくれるお隣さん
実家の隣には、70代くらいのおばさんが住んでいる。
私が高校生のころ、部活から帰ると、物干しに干していた洗濯物が縁側にたたんで置かれていたことがあった。急な夕立に気づいたおばさんが、取り込んでくれたのだ。
「急に降ってきたから、勝手に入れちゃった」
「すみません。助かりました」
そんなふうに昔から何かと気にかけてくれる人で、両親もずいぶん頼りにしていた。
結婚して家を出してからは、年に何度か夫の運転で実家へ帰っている。
最初に夫の車で帰省したときも、車を止めて5分もしないうちに、おばさんが門の前までやってきた。
「知らない車が止まってるから、誰かと思って。お客さん?」
「私です。主人の車で帰ってきました」
「あら、そうだったの。おかえり」
次に帰省したときも、おばさんは車を見ると門の前へ来た。
あとで父が新聞をたたみながら、少し苦笑いして言った。
「うちの前のことは、隣のほうがよく見てるな」
真夜中に言われた、車の色
その翌年、夫が車を買い替えた。紺色の車を手放し、今度は白い車を選んだ。
ただ、そのことは帰省の日まで両親にも、お隣さんにも伝えていなかった。
その日は出発が遅れ、実家に着いたのは真夜中近く。隣の家もすでに暗く、私たちは静かに車を止めた。
車を降りて荷物を持とうとしたとき、隣の門が開く音がした。
「おかえり。遠いところ、お疲れさま」
見ると、おばさんがこちらへ歩いてくる。そして私たちの車に目を向けると、ごく普通の調子で言った。
「白い車にしたのね。前の紺色より、いいじゃない」
私は一瞬、返事が遅れた。
「あ、はい。先月替えたばかりで」
夫が答えると、おばさんは「そうなの」とうなずき、そのまま家へ戻っていった。
翌朝、母が窓の外の車を見て目を丸くした。
「あら、車替えたの?」
「うん。昨日、お隣さんにも『前の紺色よりいい』って言われたよ」
「え、お隣さんに?」
「そう。お母さんたちにもまだ言ってなかったのに」
母は少し黙ってから、もう一度窓の外を見た。
帰省すると、つい隣の窓を見てしまう
とはいえ、おばさんに何か困らされたわけではない。
今も道で会えば向こうから声をかけてくれるし、私たちも変わらず年に何度か帰省している。
それでも、あの夜のことがあってから、実家の前に車を止めると、つい最初に隣の家を見てしまうようになった。
今年の正月も、夫がエンジンを切ったあと、何となく隣の家へ目を向けた。
窓のカーテンが、ほんの少しだけ開いていた。
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた30代女性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














