「ちょっと、外行ってきますね」勤務中に席を立ち戻らない新人→社員寮の備品まで壊し始めた静かな崩壊の結末
朝礼の途中、ふらっと立ち上がった新人の背中
OJT初日の朝、彼はおとなしく席に座っていました。
入社三年目の僕にとっても、新人を見守るのは初めての春。
髪を整え、まだ折り目のついたスーツを着た背中は、どこから見ても真面目そのものでした。
緊張気味の彼に、簡単な業務マニュアルを渡したところまでは、何も問題ありません。
異変が起きたのは、午前の朝礼が終わった直後のことでした。
彼が、ふらっと椅子から立ち上がります。
「ちょっと、外行ってきますね」
声のトーンに、感情がありません。
コンビニにでも行くのかと思って、僕は軽く頷きました。
けれど、彼が戻ってきたのは、お昼を過ぎてからでした。
カバンも上着もそのままで、財布だけ握りしめて出ていったきり、行方は誰にもわかりません。
戻ってきた彼は、何事もなかったような顔で、自分の席に座り直すだけ。
翌日も、その翌日も、似たようなことが繰り返されます。
彼の希望配属が東京で、実際の配属が福岡だったことを、僕はあとから人事の人に聞きました。
「東京じゃないなら、もうどうでもいいです」
配属発表の日、廊下で彼が呟いていたという、その一言を。
寮の照明カバーが割れ、フロアから名前が消えた朝
二週目に入った頃、社員寮の管理人さんから、職場に連絡が入るようになりました。
共有スペースの椅子の脚が、根元から折られている。
廊下の照明カバーが、何かで殴ったように割れている。
誰がやったかは、寮内のカメラと、夜中の音の証言からすぐに特定されました。
けれど本人は、聞かれても「覚えてないです」と一言だけ。
表情はやはり、無表情のままです。
無断欠勤が三日続きます。
携帯にかけても出ません。
人事の方が寮を訪ねると、彼はベッドに横になったまま、天井を見ていたそうです。
怒りの爆発、というよりも、静かに自分の中身を全部捨ててしまったような、そんな空気だったと聞きました。
ある朝、フロアの掲示板に短い人事通達が貼り出されます。
仮雇用期間中の、解雇。
その会社で前代未聞の出来事だったと、後になって先輩から教えてもらいました。
空席になった机に、誰も触れようとしません。
怒鳴り散らすでも、暴れるでもなく、ただ静かに崩れていった同期の姿は、いまも僕の背筋を冷やし続けています。
※tendが独自に実施したアンケートで集めた、20代・男性読者様の体験談をもとに記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














