「うちは夫が全部やってくれるの」→「羨ましい、お暇なのね」塀越しに妻へ自慢する隣人が黙ったワケ
塀の向こうの自慢話
夕方の庭仕事は、妻の日課だった。
その日も妻がしゃがんで雑草を抜いていると、隣の奥さんが塀越しに話しかけてきた。私は洗濯物を取り込みながら、その様子を聞いていた。
この奥さんは、庭の話になると決まって我が家と比べたがった。花壇の手入れも、庭木の形も、ことあるごとに「うちはね」と自分の家自慢を挟んでくる。
妻はいつも笑って受け流していたが、その日はいつになく絡んでくるようだった。
「あら、また伸びてるわね」
妻は顔を上げて、軽く頭を下げた。
「夏はすぐ伸びちゃって」
すると奥さんは、待ってましたとばかりに胸を張った。
「うちは夫が全部やってくれるの」
そう言って、ちらりとこちらの家を見た。暗に「お宅のご主人は何もしないの?」と言いたいのが伝わってくる。
私は少し気まずくなって、洗濯物を抱えたまま立ち止まった。
塀の向こうの花壇は、確かに手入れが行き届いていた。だが、それを誇るのに、なぜわざわざ人の家を引き合いに出すのか。
私にはその感覚が分からなかった。
妻の手が、少しだけ止まったのが見えた。
見下していた背中が小さくなった
奥さんはなおも続けた。
「草むしりも庭木も、ぜんぶ主人任せ。楽でいいわよぉ」
妻は軍手を外し、ゆっくり立ち上がった。土のついた手を膝で払い、塀の向こうの奥さんをまっすぐ見る。
その表情に、いつもの遠慮はなかった。そして、にっこり笑って言った。
「羨ましい、お暇なのね」
奥さんの表情が固まった。
「……え?」
「お仕事もされないで、お庭のことだけ。ご主人、そんなに時間があって羨ましいわ」
奥さんは何か言い返そうとしたが、口ごもったまま声にならない。塀の上で組んでいた腕が、ほどけていった。いつも余裕たっぷりだった顔が、今は行き場をなくしている。
「……用事を思い出したから」
そう言い残して、逃げるように去っていった。私が「すごいな」と声をかけると、妻は肩をすくめた。
「ああいう人には、正面から返すのが一番」
「怒らなかったな」
「怒るより、事実をそのまま返すほうが効くのよ。相手が一番触れられたくないところをね」
妻は軍手の土を払って、いたずらっぽく笑った。長年こつこつ受け流してきた妻の、初めて見る顔だった。その横顔が、やけに頼もしく見えた。
それ以来、奥さんは庭先で会っても自慢話をしてこない。あれだけ毎回こちらを見下していたのに、目が合うと、気まずそうに会釈して通り過ぎるだけになった。勝ち誇っていた背中が、急に小さく見えた夕方だった。
※tendが独自に実施したアンケートで集めた、40代・男性読者様の体験談をもとに記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














